第4章~異世界でも童貞確定した俺がポンコツなパーティーを結成するまでのお話~
第24話 住民登録
ウォーター市の庁舎は、街の中心部に位置する小高い山の上にある。かつてこの辺りを治めていた領主の館だったというレンガと石造りの、ヨーロッパのお城のような荘厳な建物だ。
とりあえず、住む場所を確保できた俺とアナスタシアは、この街に住民登録をするべく、その無駄に立派な市庁舎へと向かった。
「お主らだけでは心配じゃから、案内がてら我も一緒に行ってやろう」
そう言って、半ば強引にエスタがついてきた。だがこの幼女、何か企んでいそうで怖い。
麓から山道を登ること1時間。ようやく市庁舎のある頂上へとたどり着いた。どこの世界でも、お役所っていうのは不便な所にあるものだな。
そうした不満はさて置き、まずはエントランスにある総合カウンターみたいな所で、どこで住民登録をすればいいのか聞いてみることにした。
「あの~、すみません……」
「あぁ、ご結婚される方ですか? おめでとうございます。でしたら、あちらにある市民課の方へ……」
どうやらカウンターのお姉さんは、俺とアナスタシアを見て婚姻届を出しに来たカップルだと思ったようだ。
「「違う!」」
俺とアナスタシアは息もぴったり、即座に否定した。
「あっ、これは失礼致しました。お二人があまりにもお似合いのカップルに見えたものですから、つい……」
お姉さんはエルフ族なのか、その尖った耳を真っ赤にして自分の早とちりを謝罪した。
「この小娘め、何を勘違いしておるのじゃ! こやつと結婚するのは我の方じゃぞ!」
カウンターのお姉さんからだ、背が低すぎて姿の見えないエスタが、ぴょんぴょん飛び跳ねながら必死に訴えている。
その言葉を真に受けたお姉さんは、俺のことをガチなロリコンだと思ったのか、ドン引いた視線を向けてきた。
「ちょ、おい、エスタ! 誤解を招くようなことを言うんじゃない!」
「お待ちください! エスタ様が結婚なさるのは、こんな薄汚くてどこの馬の骨とも分からない、甲斐性なしの童貞男などではなく、絶対崇高なる神にこの身を捧げた救国の英雄たる私めでございます!」
そこへ、アナスタシアがそんな風に口を挟んできたものだから、余計に話がおかしなことになった。
ていうか、お姉さんの前で俺のことを童貞って言うな。それなら今のお前には、救国の英雄になる資格なんてないだろうと言いかけて思い留まった。
「とにかく、我はスグルと結婚するのじゃあああああ!」
「何を仰いますか! エスタ様と私は永遠の
「おい、二人とも止めろって!」
総合カウンターの前がちょっとしたカオス状態と化した。
「あの……、誰と誰が結婚なさろうと勝手ですが、他のお客様のご迷惑となりますので、揉め事ならよそでやってもらえませんか?」
お姉さんは引きつった笑顔を浮かべつつそう言った。
§§§
総合カウンターのカオスをどうにかこうにか収めて市民課の窓口までやって来たのだが、ここで一つの大きな問題にぶち当たった。
「えっ、国籍も戸籍もない? それですと住民登録はできませんが……」
犬のケモ耳をしたキレイめな感じのお姉さんが、困惑した表情を浮かべてそう答えた。後で知ったことだが、犬のケモ耳をした獣人族はバウマノイドというらしい。
それはともかく、この世界へ飛ばされてきたばかりの俺に、当然だが国籍や戸籍なんてあるわけない。
「スグル……。やはり貴様は戸籍はおろか国籍すらない怪しい奴だったんだな」
俺の隣りで申請用紙にすらすらと記入しているアナスタシアが、同情とも軽蔑ともつかない眼差しを向けてきた。
「うっさいわ! そう言うお前は戸籍がちゃんとあるのかよ?」
神に仕えるだの救国の英雄だの自称して旅する痛い女に、まともな戸籍や住所があるとは思えない。
「ぶ、無礼な、私にはちゃんと戸籍も住所もあるぞ! これを見ろ!」
そう言って、アナスタシアが記入の済んだ申請用紙を俺の目の前に突き出した。
――本籍 ヴァラーギ地方ジーク郡トゥーザン村1353――
ヴァラーギ地方というのは、ここガンマ地方のずっと東にあるらしく、乱世洋と呼ばれる広大な海に面しているという。
時々、アナスタシアの言葉が微妙に訛っていると感じるのは、このヴァラーギ地方の方言のせいなのかもしれない。
そして氏名の欄を見てみると、アナスタシアのフルネームが記入してあった。
――アナスタシア・エロイーズ・ステファ・バヴァロワ・ド・トゥーザン――
……って、長いわ!
「アナスタシアのこのやたらと長い名前って、お前、どこかの貴族様か何かなの?」
「ん? あぁ、私は――」
「おい、スグル。この書類にサインせい!」
そこへエスタが会話に割り込んできて、茶色っぽい書類を目の前に突きつけてきた。
「ちょ、おい! これって婚姻届じゃないか!? しかも、何しれっと俺の名前まで書き込んでいるんだよ!」
このロリババァめ、やっぱり油断も隙もあったもんじゃない。そしてそのせいで、アナスタシアの素性を聞きそびれてしまったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
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