第19話 はじめてのやえい

 ニャンベルを出てから近くの雑貨屋で食材などを買い込むと、もうすっかり陽が傾いていた。


 野営具一式に晩メシの材料も手に入れたので、後は野営をする場所探しだ。さすがに街中での野営は人目もあるので、できればそれは避けたい。


 どこで野営するか――。ていうか、何で俺だけが荷物を持ってるんだっての。


「おい、アナスタシア。お前もちょっとは荷物を持つの手伝えよ」


 アナスタシアはニャべゾーくんストラップが余程気に入ったのか、何度も手に取っては掲げたりとすっかり浮かれていて、俺の言葉など全く耳に入っていない様子だ。


 あんな物一つでここまでご機嫌になるなんて、ほんとチョロい女だな。でもまぁ、さっきみたいにあいつを背負って歩くよりはマシか。


 そうこうしているうちに、俺たちは街外れの城壁にほど近い、やや開けた野原のような場所にたどり着いた。近くには木々が茂るちょっとした森があり、そのそばには小さな川も流れている。


 おいおいおーい! 野営するには持って来いのロケーションじゃないのか、これ!


 よし、ここに決めた!


 野原の中に少し見通しのいい場所を見つけたので、そこにテントを張ることにした。


 キャンプは初心者の俺だが、元いた世界では折しも『ぬるサバ』という、女子高生たちがぬるいサバイバルキャンプを楽しむアニメが大流行で、それをばっちりチェックしていたので問題はない。


 テントはいわゆるワンポール式で、真ん中にポールを立てて四隅をペグで固定するだけの至ってシンプルなもので、俺でも簡単に設営することができた。中に入ってみると、案外広くてちょっとわくわくしてくる。


「こんなところで寝るなんて私は嫌だぞ! 臭いし汚いし、あちこち穴も開いていて虫が入ってくるじゃないか!」


「文句言うんじゃない! 雨露が凌げるだけでもありがたいと思え!」


 またアナスタシアがごねだしやがった。


「それに、嫁入り前の乙女が男と同衾などできるものか。そもそも、絶対崇高なる神にこの身を捧げる者としてだな、そんな破廉恥なことは……ぶつぶつ」


「はぁ? 嫁入り前の乙女だぁ? 今のおまえはしょ……」


 やっば、危うくまた地雷を踏むところだった。


「と、とにかく我慢しろ! なんなら、俺は外で寝るからそれでいいだろう!」


 アナスタシアはぷいっとそっぽを向いて、まだ何かぶつぶつと文句を垂れている。


 とりあえずこいつは放って置いて、テントも立てたことだし次は焚き火の準備だ。


 川向こうにあるちょっとした森の方へ行ってみると、薪になりそうな小枝があちこちに落ちていた。これで、自然の着火剤という松ぼっくりでも落ちていればいいのだが。


「ぼんじゅーる!」


 何やら可愛らしい声が聞こえた気がしたので振り返ってみると、そこにはなんと、松ぼっくりが落ちているじゃない!


 この世界にも松の木があって助かった。そしてその松の木の根元をよく見ると、マツタケっぽい形をしたキノコが生えていた。採ってみると匂いも何だかそれっぽい。


 まぁ本物のマツタケって食べたことはないけれど、確かインスタントのお吸い物がこんな匂いしてたっけ。晩メシの食材として、これもいくつか採っていくとするか。


 テントに戻ろうと川のほとりまで来ると、アナスタシアが川の水で身体を拭ったりしていた。


 鎧を脱いでキャミワンピのような衣服に着替えた姿は、その巨乳を惜しげもなくひけらかし過激なまでにエロい。


 夕陽に照らされて、黄金色に輝く長い髪をゆっくりと櫛でくアナスタシアに、俺はただただ見惚れてしまっていた。


 そんな俺に気付いたアナスタシアは、立ち上がると屈託のない笑みを浮かべて、こっちに向かって大きく手を振った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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