第14話 一日一回まで♡
「き、貴様、一体どういうつもりだ? まさか私を……。はっ!?」
すっかり正気に戻ったアナスタシアが、慌てて自らの下半身へと手をやる。そして何かを悟ったのか、俯いたままわなわなと震えだした。
「いやいやいや、俺じゃない! 俺じゃないから! 俺はむしろ、ゴブリンに襲われていたお前を助けてやったんだってば!」
俺は慌てて言い訳……、いや、ありのままの事実を主張した。
「そんなこと信じられるものか! ではなぜ私に覆いかぶさるようにしていたのだ?」
「あ、あれはその……。気を失っていたお前の顔があまりに可愛くてだな……。そ、その……、つい
だああああああああああ! 恥かしさで顔が燃えるように熱い。
「な、ななな、何を言っているのだ、貴様! わ、私のことが可愛いだと!? でたらめなことを言うな!」
アナスタシアも顔が見る見る赤くなり、明らかに動揺しているようだ。そして、それを隠すかのように傍らに落ちていた剣を拾い上げると、勢いよく鞘から引き抜いた。
「やはり貴様はとことん怪しい! 祖国フリンスのためにも怪しい者は今ここで成敗する! 覚悟しろ!」
あぁ、またこれかよ。ほんっと、どこまで面倒臭いんだ、こいつ……。
「ちょ、ちょっと待ったぁ! 冷静になって考えてみろ! 俺を成敗すると
「ぐぬぬ……」
――チン。
アナスタシアは静かに剣を鞘に納めた。
ふぅ……、危なかった。予想に反して今回はやけに聞き分けがいいじゃないか。でもそれはそれで、返って気味が悪いんだけどな。
§§§
「そ、それじゃあ魔法をかけるぞ」
「あぁ、頼む」
またあの死ぬほど恥ずかしい詠唱を声に出して言わなきゃいけないのか。
俺は取説をぱらぱらめくると、適当に目についた詠唱を選んだ。
「遍く宇宙、森羅万象を司る絶対神聖なる神よ。今ここにその厳正なる裁きを仰ぐ。そしてこの罪業深き者に大いなる慈悲と救済を。『リヴァージン』!」
あぁ、これもくっそ恥ずかしいんだが。
詠唱からワンテンポ遅れて、アナスタシアの身体がぼわっと光った。
…………。
ん? 何かが違う。
そうか、これまでは魔法が発動すると、そのエフェクトは青白い光だった。でも今回は、どういう訳か赤く光ったんだ。
ま、まぁ、魔法はちゃんと発動したのだから別に問題はない……よな?
「何だ、もう終わったのか?」
アナスタシアはおもむろに下半身へと手をやると、もぞもぞと確認しだした。
ちょ、だからその確認の仕方! またその手で触らないでくれよな。
「……!?」
まさぐっていたアナスタシアの顔色がさっと変わった。
「おい貴様、どういうことだ? 純潔に戻っていないではないか!」
アナスタシアは怒りに満ちた視線を俺に向けてきた。
えっ、純潔に戻っていない? どういうことだ??
もしかして、詠唱を間違えたのか? いや、そんな筈はないし噛んでもいない。ならどうして……。
慌てて取説をめくってみると、注意書きにこんな一項があった。
『同じ人物に対する魔法の使用は一日一回までです。それ以上ご使用になられても、魔法による効果は得られませんのでご注意ください』
……マジか。
アナスタシアにはすでに魔法をかけているから、もう一度かけても今日はもう純潔には戻らないというわけか。
ってことは、さっきのあの赤い光はエラー表示みたいなものだったんだな。
何てこった。これ、どうやってアナスタシアに説明すればいいんだ。
すんなり納得してくれるわけないよな。だって、物凄い形相でこっちを睨んでるんだもん。
「おい、何を黙り込んでいるのだ? これは一体どういうことだと聞いている!」
あぁ、これはもう完全に怒っているよね……。
「あっ、えーっと……ですね、これはその……。魔法の効果は一日一回までで、それ以上は何度かけてもダメなんだって。ごめんね、てへぺろ!」
俺は意を決して打ち明け、最後はノリでおどけて見せた。
しばしの沈黙が流れる。
「……ふぅ。それはつまり、私は純潔には戻っていないということだな?」
「いや、あの……、今はそうだけど、明日になったらまた魔法をかけてやるから! そしたらまた純潔に戻れる筈だから、多分……」
アナスタシアは目の前で剣を真横に持つと、静かに鞘から引き抜き始めた。鈍色に輝く剣の向こうに、レ○プ目になった彼女の顔が見える。
だあああああああ! またこれか。もうほんと勘弁してくれえええええ!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
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