第13話 からの~再喪失

「待て! 貴様はこれから何処へ行くのだ?」


 精神をごりっごりに削られた俺は、逃げるようにして立ち去ったのだが、アナスタシアは後を追いかけてきた。


「男に襲われているところを助けてやったり、処女ま……、救国の英雄ってやつになれるようにもしてやったんだ。もうそれで充分だろう? だから、もう行かせてくれよ!」


 一刻も早く、この面倒臭い女の子から解放されたい。


「いや、やはり貴様は色々と怪しい。そんな奴をこのまま行かせるわけにはいかない!」


「いやいや、俺は怪しい者なんかじゃないんだってば!」


「いやいやいや、そんなこと信じられるものか!」


「だあああ! ついてくるなあああああああ!」


 小走りだった俺は、全力ダッシュで逃げることにした。


「おい、待て! 逃げるとはますます怪しい奴め!」


 アナスタシアも、全力ダッシュになってしつこく追いかけてくる。だが向こうは、鎧を着ていたり何だりと結構な装備なので、身軽な俺の方が断然有利。


 走りながら何度も振り返ると、少しずつ距離が開いてきた。


「ハァ、ハァ、ま、待てぇ! に、逃げるなぁ……。ハァ、ハァ……」


 アナスタシアの息は切れてペースが落ち、明らかに疲労の色が浮かんできた。よし、これならあと少しで振り切れそうだ!


 俺はさらにスピードを上げて、しばらく走ってからもう一度振り返ってみると、アナスタシアの姿は見えなくなっていた。


「うおおおおお! やった! やっと振り切ったぞおおおおおおおおお!」


 俺は嬉しさのあまりガッツポーズで雄叫びを上げた。


 ようやく、あの面倒臭い女の子から解放されたと思うと、何だか謎の感動、謎の達成感が込み上げてくる。


 本当に何だったんだ、あいつ……。自分のことを救国の英雄だとか痛いにも程がある。しかも恩人であるはずのこの俺をいつまでも変態や不審者扱いしやがって。


 ま、まぁ可愛くて巨乳で、ツンデレなところは悪くはなかったけど。


 それにしても、案外あっさりと振り切れたことが返って気になってきた。もしも途中で倒れていたり、怪我でもしていたら……。


 あぁ、くそっ! ちょ、ちょっと様子を見に戻るだけなんだからな!


 来た道をそっと戻ってみると、何やら茂みの方からガザガサと物音が聞こえてきた。


 アナスタシアか? アナスタシアなのか??


 俺は物音のする方へ忍び寄り、茂みの草をそっとかき分けてみる。


「アナスタシ……ア?」


 するとアナスタシアが、何やら緑色をした複数の小型の生き物に襲われているじゃないか。これって、いわゆる異世界モノなんかで定番のゴブリンってやつだよな。


 しかも、そのゴブリンとみられる生き物は、アナスタシアの下半身辺りの衣服を引き剥がし手足を押さえつけている。さらにそのうちの一匹が、彼女にまたがって激しく動いているじゃないか。


 アナスタシアはというと、俺を追いかけたことで体力を使い果たしたのか全く抵抗もできずに、レ○プ目でされるがままになっていた。


 この状況だと、今から助けに入ってもきっと手遅れだろう。とはいえ、このまま彼女を放って置くわけにもいかない。


 ゴブリンっていうと、そんなに強くもない雑魚キャラみたいなイメージがあるから、俺でもどうにかなりそうではある。けれど、さすがに複数相手では素手だと厳しいぞ。


 ふと周囲を見回してみると、またしてもおあつらえ向きな長さの木の棒が落ちていた。こういうところは、本当に無駄に用意がいいんだな。


 俺はその木の棒を拾うと《続・伝説の剣》と名付けた。


 何度か振り回してみて、手に馴染むのを確認する。今度は砕けるなよ。


 よし、今助けに行くぞ、アナスタシア!


「うおおおおおおおおおおお!」


 俺は勢いよく飛び出すと、アナスタシアに覆いかぶさっているゴブリン目がけて、続・伝説の剣を思いっきり振り下ろした。


「ぐふっ!」


 やった! ……と思ったら、なんとゴブリンは素早く身をかわし、俺の渾身の一撃はアナスタシアに決まってしまった。


 だが幸いと言うべきか、彼女は上半身に安っぽい鎧を身に着けていたので、そこに直撃したためダメージはそれほどでもない……はずだ。


 とはいえ、その一撃でアナスタシアは白目を剥いて気を失ってしまった。


「ごめん、アナスタシア。後でちゃんと手当てしてやる。けど今は――」


 ゴブリンの数は合計5匹。背丈は子供くらいだが、人間から奪い取ったとみられる服や武具を身に着けていて、おまけにナイフのような物まで持っている奴もいる。これは舐めてかかると、返ってこっちがやられてしまいそうだ。


 俺は続・伝説の剣を八相に構えると、ゴブリンどもの出方を窺った。八相の構えというのは、剣を顔のあたりで立てて持つ構えで、ぶっちゃけて言うと、野球のバッティングフォームみたいなものだ。


 ってことはつまり――。


 俺の読みはドンピシャだった。ゴブリンどもが横一列になって一斉に襲いかかってきたところを、俺はフルスイングで薙ぎ払った。


 結果は特大ホームラン! ゴブリンどもは吹き飛び、ばたばたと折り重なるようにして倒れた。


 どうだ、アナスタシア! 見たか俺の強さを! あっ、俺のせいで気絶しているんだっけ。


 それはそうと、こういうのって魔物やモンスターを倒すと、経験値が入ったりレベルが上がったりするものだけど、この異世界にはそういうシステムはないのかよ。


 試しに、腕時計を見るような仕草をしてみたけど、そこにウインドウのようなものは浮かび上がってはこない。まぁ、そりゃそうだよな、うん。


 とりあえず、ゴブリンの所持していた皮袋をひっくり返してみると、500円硬貨くらいの大きさの、この世界での通貨のようなものがじゃらじゃらと出てきた。


 考えてみたら、俺は無一文でこの世界へと飛ばされてきたんだよな。それでどうやって、ギガセクスの娘を見つけて純潔に戻し、さらには魔王を討伐しろっていうんだよ……。


 あまりの無茶ぶりに、またしてもあのおっさんへの怒りがふつふつと込み上げてきた。


 何はともあれ、これからこの世界を生きていくのに金はあるに越したことはない。この金はドロップアイテムとして頂いておくとしよう。


 あっ、そうだ、アナスタシアは――!?


 彼女は相変わらず、仰向けのままのびている。そしてよく見ると、下半身あたりの着衣が乱れていてひどく艶めかしい。


 やっぱりこれ、絶対に手遅れなやつだよな……。


 金髪碧眼に透き通るような白い肌。おまけに、めっちゃ可愛い顔をして、無駄に巨乳ときている。


 黙っていれば完璧なまでの美少女なのに、メンヘラ気質でなんて残念な女の子なんだろう。しかも一日に二回も純潔を喪失するって、もはや残念を通り越して、哀れにすら思えてくる。


 しょうがない、もう一度『リヴァージン』をかけてやるか。俺は魔法をかけてやるべく、はだけた衣服をそっと直してやった。


 アナスタシアの顔を間近で見てみると、髪色と同色の長いまつ毛にうっすらと浮かぶそばかす、左の目元にはホクロなんかがあるのを確認できた。


 くっそかわええやん……。もっと、もっと近くで見たい!


 そんな思いに駆られて、吸い込まれるように顔を近づけたその時だった。


「きゃあああああああああああああ!」


 アナスタシアは、カッと目を見開いたかと思うと大きな悲鳴を上げた。


 そして次の瞬間――。


「うぐっ!」


 仰向けのアナスタシアの上に、四つん這いになる形でいたのが悪かった。俺の金的きんてきに彼女の膝蹴りが見事に決まったのだった。


「があああああああああああ……」


 俺は金的を押さえながら地面をのた打ち回り、激しい痛みで今度はこっちが気を失いそうになる。


 まぁいい。これでさっきの誤爆はチャラだからな……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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