第3章~異世界でも童貞確定した俺が胡散臭い幼女と出会うまでのお話~
第15話 ボンクエ
あれから俺は、この世界へ飛ばされてきた森からほど近い街へとやって来た。
さっき見かけた第一街人のおっさんが、『ようこそ、ウォーター市へ! ここはフリンスのガンマ地方第三の都市だ!』とか言ってたっけ。
ていうか、この街に入る際に、城門で入市税とか言ってお金を取られた。しかも二人分。そう、あれからアナスタシアも俺についてきていたのだ。
そのアナスタシアはというと――。
「殺せ。殺してくれ……」
魔法で
「おい、ついて来るならその呟きはやめろ。俺まで変な目で見られるだろうが。それからさっき立て替えたお前の分の入市税、後できっちり返してもらうからな!」
ダメだ、こいつ……。何を言っても心ここにあらずだ。まぁいい。ひとまず、こいつは放って置こう。
それよりもだ。異世界でやっていくにあたって、当面の間この街に生活拠点を築いておいた方がいいかもしれない。そうなると、まずやることと言えばあれだな。そう、冒険者ギルド的なところへ行ってのクエスト受注!
俺が異世界転生モノの作品で師と仰ぐ、『あの憎らしい異世界に乾杯を!』の主人公オズマも、そうやって充実した異世界ライフを楽しんだんだよな。
よし。俺も『あのにく!』のように、ここでの生活を充実させるぞ!
「はぁ? 冒険者ギルド? クエストを受けられる所はどこかって? あぁ、それなら――」
通行人に話しかけて聞いてみたところによると、そういう場所は、この街ではボンクエと呼ばれる施設で行っているらしい。正式名称は公共クエスト安定所といい、通称はボンジュールクエスト。それを略してボンクエというわけか。
お役所の、この何とも言えないネーミングセンスの無さというか薄っぺらさというのは、どこの世界でも同じなんだな。
それはともかく、俺とアナスタシアは、そのボンクエと呼ばれる周辺よりもひと際大きくて立派な建物の中へと入った。
「あぁ、死にたい。死にたい……」
アナスタシアはふらふらと、まるでゾンビのように俺の後をついてくる。
「おい、ちょっとここでは黙っててくれ!」
俺はそうたしなめるものの、彼女はまるでうわの空といった様子だ。
ボンクエの中はというと、よく冒険者ギルドなんかにあるような酒場といった雰囲気ではなく、事務的な机や椅子、相談窓口らしきものがあるだけの、それはもうお役所然としていた。
そして、そこを訪れている人たちは、クエストに飢えて鼻息を荒くする猛者というより、どいつもこいつも覇気のかけらもない、死んだ魚のような目をした連中ばかりだ。
この雰囲気、テレビか何かで観たことがあるハローワークの様子にそっくりだな。
気を取り直して、俺はカウンターに座っているちょっときれいめなお姉さんに話しかけてみた。
「あの~、初めてここを利用する者なんですが。クエストの受注はここでできますか?」
お姉さんは気だるそうに、薄くて四角い板のようなものを指で操作している。俺に話しかけられたことに気付くと、慌ててそれを隠して事務的な作り笑いを浮かべた。
!? さっきの四角いやつって、もしかしてスマホ? こんな中世みたいな異世界にスマホがあるっていうのか??
「よ、ようこそ、ボンジュールクエストへ。初めてのご利用でしたらまずはご登録を……」
「ちょ、お姉さん! さっきいじってたやつってもしかしてその……、スマホですか?」
「は、はぁ? 何ですか、いきなり。スマ……ホ?」
受付のお姉さんが怪訝な顔つきで答える。
「そうです! さっきのあの薄くて小さな、四角い板みたいなやつですよ! あれってやっぱりスマホですよね? ね?」
「えっ? あぁ、マジカルフォンのことですか?」
「マジカルフォン!? あれってマジカルフォンっていうんですか?」
「は、はぁ……」
受付のお姉さんの話によると、この世界にはマジカルフォンという、魔力を使って音声や映像のやり取りができる道具があるという。
そして、さっきお姉さんが使っていたのは、マジカルフォンの中でもパイフォンというもので、それはパイナポーストアというところで扱っているらしい。
……って、完全にアレじゃねーか!
でもこれはいいことを教えてもらった。後でそのパイナポーストアって所に行ってみるとしよう。
「あ、あの……お客様。それでその……、ご登録の方はいかがされますか?」
そうだった。マジカルフォンってやつに気を取られて、すっかりそのことを忘れていた。
「ボンジュールクエストを初めてご利用の方でしたら、まずはこの用紙にお名前とご住所、簡単な経歴などを記入して登録をしていただきます。それであの……ご登録されるのはえーと……、一名様でよろしいでしょうか?」
ん? 一名様ってどういうことだ??
「いや、あの……、俺とこの後ろにいる女の子の二名なんですけど」
「あぁ、そうでしたか。これは大変失礼致しました。お客様の後ろにいる女性の方は、てっきり見てはいけない、見えてはいけないものなのかと思いまして……」
あぁ、そう思うのも無理はないか。まるでゾンビか背後霊のような顔をして、ずっと俺の後ろに張り付いてるんだもんな。
「い、いや、彼女はこれでもちゃんとこの世に実在していますし、一応こんなのでも俺の連れなので……」
俺がそう説明すると、お姉さんは引きつった笑みを浮かべつつも納得したようだった。
「死にたい……。殺してくれ……」
「だああああ! いい加減黙ってろ! そんなだから変な勘違いされちまうんだよ!」
それはともかく、ボンクエの登録には住所が必要らしい。でも住所も何も、こっちの世界に飛ばされてきたばかりで、今夜寝る場所すら決まっていないというのに……。
「と、とりあえず、また出直してきます」
俺は、アナスタシアを引きずりながらそそくさとボンクエを後にした。
参ったな。いきなり詰んだぞ、これ……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
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