第11話 リ〇カブスの対処法

「頼む、私を殺してくれ……」


 アナスタシアは、俺の胸元にぐいっと剣を押し当てた。


「ちょ、ちょっと待て! どうしてそうなる?」


「私はもうお嫁に行けない……。いや、救国の英雄にはなれない!」


「い、いや、あのさ。救国の英雄はともかく、お嫁には普通に行けると思うのだが」


「ダメだ! 私の身体は、すでにあいつらによって穢されてしまったのだ……」


 えっ? それってつまり……。


 着衣が乱れたままの、アナスタシアの下半身の方へ思わず目が行ってしまった。


「私はもう純潔しょじょではなくなってしまった……」


 そう言うと、さっきまでの強気な雰囲気から一変して、アナスタシアは子供のように大声で泣き出した。


「わぁあああああん! これじゃあ、もう救国の英雄になんてなれないわぁ! 私はどうしたらいいのよぉおおおおおお!」


 どうしたらいいって、そんなこと俺が知るかよ。一気に面倒臭さが増したな、この子。


「別に純潔じゃなくたって、救国の英雄にはなれるだろう?」


「はぁ? 何言ってるの? あんた馬鹿なの? ねぇ、馬鹿でしょ? そんじょそこらの、ただの英雄とはわけが違うの! 絶対崇高な神のお告げを受けた救国の英雄っていうのはね、純潔じゃなきゃいけないって相場が決まってるのよ!」


 どんな相場だよ! って、つっこんだら負けな気がする。ていうか、こいつに馬鹿呼ばわりされると、何だかイラッとくるのだが。


「ねぇ、私どうしたらいい? 救国の英雄になれないのならもう死ぬしかない。死ぬしかないよね? だからお願い、私を殺してええええええ!」


 アナスタシアは、俺の両肩に掴みかかって激しく揺さぶりながら喚き散らしている。


「お、おい! ちょっと落ち着け、落ち着けって! 一旦離れろ!」


 必死にしがみつくアナスタシアをどうにかこうにか引き離した。あぁ、鬱陶しい!


 これ以上関わったらマジで面倒臭いことになりそうだから、適当にあしらってさっさと立ち去ることにしよう。


「だ、大丈夫大丈夫! あんたはまだ純潔のままだって。だから救国の英雄にもなれるし、お嫁にだってきっと行けるはずだ!」


「適当なことを言うな! 私は確実に純潔ではなくなってしまったのだ! なぜならさっき男のが……私の、その……、ごにょごにょ……」


 えっ? やっぱり、俺が助けに入った時にはもう手遅れだったのか?


 具体的な状況を想像すると、ちょっと前のめりにならざるを得ない。


 だがしかし、まだ望みはある!


「えーっと……、ちょっと確認なんだが。にって、具体的にどこまで? た、例えばだけど、だけならギリセーフだと思うんだけど」


 それならばカウントされないと、何かで見たか聞いたかしたことがある。


「さ、ささ、先っちょって……。な、なんてハレンチなことを聞いてくるのだ! き、貴様はやはり変態だ!」


 恥かしさと怒りで顔を真っ赤にしたアナスタシアは、勢いよく鞘から剣を引き抜いて身構えた。


 ――かと思うと次の瞬間、その剣を自分の手首に押し当てて泣き叫んだ。


「わぁあああ! 変態の貴様に殺してもらうくらいなら、もう自分で死んでやるぅうううううう!」


「あっ、ちょ、待て! それはダメだ! マジでダメだ! 落ち着けって!」


 おいおいおい、勘弁してくれよぉ。これじゃあまるで、手のつけられないリ○カブスみたいじゃないか……。ま、まぁブスではないけど。


「おい貴様、早く私をどうにかしろ! さもないと、自分でやっちゃうぞ! いいのか? 本当にいいのか? いいんだな?」


 涙目になりながらそう訴えていた拍子に、押し当てていた剣の刃が手首にサクッといった。


「いったぁあああい! ち、血がぁ! 手首から血が出てるぅうううううう!」


 アナスタシアは、手首を押さえながら地面を激しくのた打ち回った。


 あぁ、もう、マジで面倒臭い! 何なの、この女……。


 散々殺せだの喚いておいて、自分でちょっと手首を切ったらこのザマかよ。


「おい、大げさに騒ぎ過ぎだ。ちょっと掠った程度だろうが」


「そんなことないわ! よく見てよ、こんなに血が出てるじゃない! この痛みは尋常じゃないもの!」


 そう言って、得意げに手首をぐいっと突き出して見せてきたのだが、実際のところ、本当にちょっと掠って血が滲んでいるくらいにしか見えない。


「わぁあああああ! 私、もう死んじゃうんだぁあああああああああ!」


 じゃあ死ねよって、マジで突き放してやりたい。


 けどまぁ、異世界に飛ばされて、いきなりこんな面倒な子と関わってしまったのも運の尽きというか、これも何かのフラグということなのだろうか。


「あぁもう、泣くな! どれ、ちょっと手を出してみろ」


「……うん」


 急にしおらしくなったアナスタシアは、素直に手を差し出した。ぐすんってなりながら痛みに耐えるその姿は、ちょっと可哀想でもあり、可愛くもある。


 俺はズボンのポケットからハンカチを取り出すと、応急措置として手首にそれを巻きつけた。その間、アナスタシアは恥ずかしいのか黙ったまま顔を背けている。


 俺は俺で、はだけた胸元についつい目が行ってしまい、ハンカチを巻くのに思いのほか手間取ってしまった。


 あれ? やっぱりこれって、普通にヒロインとの邂逅イベントなんじゃね?


 自分のことを、救国の英雄と思い込んでいる痛くて面倒臭い女の子だけど、大人しくしていると普通に、いやかなり可愛い。


 やっぱり、金髪碧眼に巨乳は伊達じゃない!


「あ、ありがとう……」


 アナスタシアは伏し目がちに囁いた。


 やっべ、何か超可愛いんですけど。この瞬間、俺の中で何かのスイッチが入った……気がした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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