第4話
第二の問題点。それは…ここからはとても非科学的な話になると思う。それを心に留めておいて聞いてほしい。
僕がシナリオを書いたという事実はあるのだが、そのことはパッケージに表示されない。エロゲのホームページにも作中テロップにもどこにも表示されない。
単なる表記忘れという訳ではない。他のスタッフの名前や役職についてはきちんと表記されている。僕についてはそれが無いのだ。ディレクターに問い合わせてみたが彼も良く分からないとのことだった。原画、音楽、背景の担当等々、制作に関わった様々な人に問い合わせてみたが皆よく分からないと言う。単にこれだけを聞くと僕がサークル内でいじめに似た何かを受けているかのように聞こえるがそうではない。
僕自身、皆がよく分からないという理由を理解していた。
販売開始前、確かに表記はあった。それは僕の手元に届いた現物、それ自体に表記があったという記憶が僕の中にも確かにあるのだ。世に出る作品に初めて自分が関わったという実感が湧いてきて、僕は何度もパッケージに表示される自分の名前を眺めた。ついでに写真も撮った。
それが世の人々にリリースされるという時になって「消えた」のだ。シナリオ担当が書かれているはずの場所はただの空白になっていた。そもそも「シナリオ」という文字列すら無くなっていた。ついでに写真で撮ったところも消えていた。まるでシナリオ担当なんて最初からいなかったかのように僕の名前は消えていた。シナリオ担当が不在という謎革命が起こった。また、SNS等に僕がシナリオ担当だということを伝える趣のコメントをしようとしても投稿できないという現象も発生した。ホームページの書き換えも然りである。
その後、僕の名前は消えたままだ。サークルメンバーにも確認したのだが皆一様に僕と同じ考えを共有してくれていた。
世の中には摩訶不思議なこともあるもんだなぁ
本来ならば原因究明に努めるべきなのであるが、何故かそうまとめることに落ち着いた。僕の名前が表示されないということに対して、表現者としてどうなの云々とあるかもしれない。確かに名前が表示されないというのは知名度の向上等を考えると大きな損害に見えるかもしれないし、実際そういうものなのだろう。しかし、シナリオが原因で賛否両論を呼び、しかもシナリオ担当が表記されないことに関して、巷ではあえてそうしているという憶測が飛び交うようになった。まだ心の余裕があった僕個人として、「まぁ、なんか面白いことになって来たわ」と最初のうちは気楽に構えていた。さらに「そのまま放置したいな」という意見をサークル内に投じたということもあるのだろう。そのまま放置プレイをかますという結論に至った。
つまり、どうしようもなかったのである。解決策がないなりのモガキである。そこまでモガいているように見えないかもしれないが、一応水面下ではジタバタ足をフル回転させていたのだ。正直に言おう。テロップに名前が表示されたかったなぁという気持ちはあるのだ。あるのだがしかし、どうしようもないのだ。
この出来事を契機に一旦、小説やらシナリオやらを制作するのをやめようと思った。
しかし、そこにあったのは何の取り柄もない、空虚な自分自身だった。唯一の癒しだったノベルゲームも、もはや嗜む気はなくなっていた。
そんな中、僕はとある運命的な出会いを果たす…ということもなく謎の焦燥感を感じつつ年齢を重ねていった。
そして、僕は発狂した。
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