第3話
僕はエロゲのシナリオを書こうと何故か思い立った。
魔法使いになれなかったなりに何者かになろうとした挙句のものなのか分からない。ただ、書こうと思ったのは事実であり、実際に書き始めた。そこからは早かった。投稿サイトにつらつらと垂れ流ししていると、これも何故か注目され始め、実際にとある同人サークルに誘われた。あれよあれよとトントン拍子に物事は進み、ついに僕がシナリオを担当した同人エロゲが販売されるという、僕にとっては信じられないことが起こった。いやホントに感動したよ。ホントに。そんなこんなで無事販売に漕ぎつけたのだが問題点がいくつか浮上した。
第一にこの作品は賛否両論を呼んだ。僕のシナリオが多分、というか確実に原因だった。このエロゲのディレクターは「全員一致でこのシナリオを採用したんだ。確かに批判を受けるものかもしれないが、同時にこのシナリオだからこそ救われる人もいるだろう。それも込みで皆賛成したんだ。君だけが責任を感じる必要なんて一切ないよ」と、お決まりな感じではあるが確かに電話越しに励ましてくれた。彼の後ろから駄々洩れしてくる喘ぎ声が雰囲気をぶち壊しにかかってきたが気にしないことにした。とにかく、それでも責任を感じられずにはいられないというのは僕の性格なのか、普通の事なのか。現時点で僕は、僕自身に原因があると思っている。
そのシナリオについてだが、これは「悲劇に見せかけた喜劇」という裏コンセプトで制作した。表のコンセプトは「推しを定めよ。然らば後悔する」。どうか説明させてほしい。
舞台はある程度の都市…例えば札幌とか福岡とかの地方中枢都市をイメージ…主人公は大学3年生の男「佐原 錬」。(この名前を覚えといていただきたいと申すつもりは毛頭ない。今後何度も出てくるだろうし、途中から出てこなくなるような気もするからだ。)特にこれといった特徴はない。あるにはあるのだが、主人公補正が効くというアレである。
そしてこの世界には人間の他にもう一つ、「人狼」という人種が存在する。人狼といっても一昔前の海外映画に出てくるような顔がオオカミ、体が筋骨隆々な人間という狼男のような感じではない。普通の人間の姿にオオカミの尻尾と耳が生えた可愛らしいものをイメージしていただきたい。彼ら人狼はそれぞれ異能力を持ち、そして迫害されている。迫害を避けるため、いつもは耳と尻尾を隠して人々に溶け込んでいる。人狼の中には人間と友好的な関係を築こうと努める者である「和平派」もいれば、敵対心を持って人間や「和平派」の人狼を食い殺そうとする者もいる。そして人間側には人狼を殺す専門組織、「狩人」が存在する。彼ら狩人は人狼の異能力に対応する術を持ち、人間に対して友好的な人狼かどうかも関係なく処分していく。その術というものは多岐に渡り、オーソドックスな剣術や銃、更には爆発物や薬物等、何やらバトル漫画の様相を呈している。実際バトルシーンはあるのだが、ただのアクションゲームになり果てないように気を払った。唐突な人狼狩人設定に興冷めされてしまうかもしれないがご理解のほどを。実際、賛否両論の論点はここではない。論争となっているのはヒロイン攻略ルートの結末である。
ヒロインはメインとして2人存在する。天然ジト目でムッツリな人狼のヒロイン「シノ」。それと自身の強さと美貌に自覚あり、若干ナルシストな狩人のヒロイン「こはる」の2人である。他のルートとしてシノの友人でカッコいい、けれども甘えると可愛い系の人狼「シズク」、王道の清楚系狩人「ちふゆ」、完全にヤバい奴「n02」等々、様々な美少女ルートが存在する。
しかし問題はメインヒロイン2人のルートである。それは人狼の「シノ」ルートを選択すると狩人の「こはる」は死亡し、逆に狩人の「こはる」ルートを選択すると人狼の「シノ」が死亡するというシナリオ展開にしてしまったことである。これはヒロインがもう一人のヒロインに嫌がらせを受け、最終的に嫌がらせをしていた方のヒロインが死亡するというような「ざまぁ展開」に似たような構造ではない。(というか僕はそんなことを望まない。)敵対する二人が交流を続け、ついにお互いのことを理解し和解した後、とある事態が発生し泣く泣く死に別れるという展開にしてある。それに狂瀾怒濤した紳士淑女たちのために他のヒロインルートでは2人のメインヒロインは死亡しないというものにしてあるが、それで気が収まる訳ではないだろうし、僕もそうならないだろうなと思う。
一昔前ならこういうトラウマ系も受け入れられただろうが、現在においてプレイをしてくれる人が求めているのはそういうものでは無くなったのではないかと思ってしまった。そもそも僕を誘ってくれた同人サークルが作ってきた歴代作品はどれも綺麗な物語で、プレイ後は「あぁ、皆幸せになってよかった」と正直に思えるものばかりだった。ヒロインと世界線を交えて離れ離れになるエンドも存在はするのだが、きちんとアフターストーリーで再開のハッピーエンドで締めくくる。それを心待ちにして購入してくれた方々には大変申し訳ないことをしたと思っている。僕が用意したアフターストーリーにそのようなことはないのだ。
それでは、何故このようなことをしたのか。不条理を描くことで自身と重ねることが出来る人がいるかもしれないという仮説が思い浮かぶことかと思う。そしてそれはまぁまぁ合っているんじゃないかなと僕は思う。こんな中途半端な言い方になってしまうのにも理由がある、と言いたいところではあるのだが、あまりそうとは言えない。僕が何となく書いていったらそうなったとしか言いようがなかった。
とにかく、結果としてこうなったという訳で、そこにはきっと先ほど述べた「重ねる理論」が成り立つのだろう。つまり、僕自身そう上手くいかないよねというのを書いて彼女たちと自身とを重ねようとしたのだと思う。完全に自己満足である。
批判を受けても仕方ない。そう思っていたのだが、賛否両論といったように大量のクレームに対して思いのほかポジティブな反応も多く貰うことも出来た。自己満足であるが人様の琴線に触れることが出来たのは収穫だったと思うことにする。
しかし更なる問題は次の点である。
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