最終話

 それから六日ののち。ラクテア・クリスタータ・キトルス・ユーフォルビアとミハイル2世の華燭の典は当初の予定通りにつつがなく執り行われた。正妃の地位にも何ら変更はなかった。


 わたしとルービィは出ないわけにもいかないから一応出席したが、もちろん新婦と一言も会話は交わさなかった。彼女はルービィの生涯の敵で、そのことに変わりはない。これからもずっと。

 

 アンフィスバエナはあのあと投獄された。死刑になるのが当然の所業を働いたわけだが、皇帝がそれはならぬと言い、しかしキトルス家に返還するわけにもいかないので、結局奴隷として競売にかけられることになった。皇帝が言うことは絶対なのである。


 ルービィは教授の所有する、帝都にあるシルヴェストリス邸に引っ越すことになった。広い屋敷であるにも関わらず教授は一人暮らしをしていて、ほとんどの空間は使われていなかった。蜘蛛の巣だらけ。


「これは……掃除が大変ですね。やりがいがありそう」

「あなたまさか自分で掃除するつもりなの。それはおやめなさいね?」

「ふぇ。やっぱり自分の奴隷、持たなくちゃダメですかね」

「わたしが言うのも何だけど、持たなくちゃダメよ」


 ちょうど竜人の女奴隷の出物があったので、ルービィはそれを買った。屋敷に連れてきてその光景を見せると、女は嘆息した。


「で。一人でこれを全部掃除しろと。そう仰るのですか御主人様」

「うん」

「やれやれ……裏の稼業じゃ少しは知られたこのわっちがねえ……ま、いいけどさ」


 その後も局長であるわたしは色々なことに忙殺される日々が続いて、ふと気が付いたら今日が二十六歳の誕生日だった。非番を取れる余裕はないが、夜は約束があるので公邸に戻らず達樹のところに向かう。顔を見れるのも久しぶり。うふふ。わたしにだって女の幸せを堪能する権利というものがありましてよ。


 ここまで馬車で来たのだが、御者は空荷で帰らせる。誰にも邪魔されたくない。と思っていたのだが。ドアを開けたらお邪魔虫がいた。


「レティ様ー! おたんじょうび! おっめでとうございまーす!」


 わたしは拗ねた。


「イリス。こういうのを日本じゃサプライズパーティーと言ってだな。いや、黙ってたのは悪かったよ。すまん。この通りだ」

「ふんだ。達樹さんのばか」


 しかし数時間後、達樹がとても優しくしてくれたのでわたしは機嫌を直した。


「やれやれ。お子ちゃまでなくなってもレティ様はやっぱりチョロいですね」

「ぶつわよ」

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