4
中学は3年間、休みがちだった。
朝になると、お腹が痛くなった。
家を出ることができても、歩いている途中に動悸がした。
学校が近づいてくると、拒否反応が出る。
呼吸が浅くなり、脚がすくんだ。
嫌だ、こわい、帰りたい、と心が泣き叫ぶ。
手首を切るのが癖になった。
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この私にできることって何?
私の居場所はどこ?
もし神様が本当にこの世にいるのなら
きっと私のこと忘れてるんだろうな。
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中学校は地獄だった。
心に灯っていた火が消えたよう。
ああ、苦しい。
女子バレー部に入った。
馴染めなかった。
いじめ、だったのかはわからない。
ハーフの私は、バレーで活躍するだろうと部員たちから敵視された。
最初に受けたショックは、この会話だった。
先輩たちに、
「お父さんがガイジンだっけ?」
と言われ、
「お父さん、いないんです」
と慣れた口調で私は答える。
人生で何度も繰り返されたこの質問と答え。
どうってことないはずだった。
2秒後、私の表情は崩れる。
先輩たちは、急に爆笑し出した。
「お父さんいないの?!」
「なになに、なんだって?」
「お父さんがいないんだって!」
「えーまじで!」
「え、お父さんいないってどういうこと?!」
「なんかやばくない??」
ああ、文字では表現しきれない。
あのひどく異様な空気感を。
差別的な笑い声が、体育館中に響き渡る。
変な恥ずかしさに駆られた。
意味がわからなかった。
お父さんがいないって、そんなにおもしろいのか。
お前らには心ってものがないのか。
…私はどんだけ下に見られてんだ。
私を守ってくれる人はいない。
試合の時に、私にだけ挨拶を返さない他校の部員はたくさんいた。
遠征でやった1人ずつのパスの練習で、部員たちにナイス!と声をかけながら、私のことだけスルーするコーチもいた。
平気なふりして練習を続けた。
…言葉にできない違和感と疎外感を感じながら。
夏休みのある日、部活に行くと、部員に「何?」とにらまれた。他のメンバーに声をかけても無視される。
驚きはしなかった。ただ、確信した。
「私はふつうに扱ってもらえないんだ」
バンッと心臓を撃たれた気がした。ショックだ。
私はふつうじゃない。
ハーフはふつうじゃない。
お父さんがいないのはふつうじゃない。
ふつうじゃない、ふつうじゃない、と私の頭の中で低い声がする。
ずっと、気づかないふりをしてきた。
でももう認めずにはいられない。
みんなは、ふつうじゃない私を避けている。
みんなと違うのは悪いことなんだ。
だから私は、みんなの仲間に入れてもらえないんだ。
涙が溢れて止まらなかった。
こんな自分が恥ずかしい、
自分なんて大嫌いだ、と思った。
私は、ようやく気づいた。
私の心は壊れている。
———ふつうになりたい。
———みんなと同じでいたい。
深く傷ついた中学1年の夏のその日。
それが、部活に行った最後の日だった。
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朝起きてすぐ、昨日までのことが現実じゃないことを祈る。
ねぇ、私ってやっぱり変?
ねぇ、私を起こしてよ
ねぇ、生きる意味を教えてよ
暗い過去が、タトゥーのように脳に刻まれている。
鏡が見れない。
この肌と髪は、私を暗闇に堕とす。
堕ちていく…
今日と同じ明日は嫌だ。
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「その暗闇って、あなたの肌より暗いの?」
目が覚めた。
バレー部を辞めてから、被害妄想が悪化していた。
バレー部員と廊下ですれ違うたびに気まずい。
吐き気がする。めまいがする。
「なんで辞めちゃったのー?」
「背高いから使えたのに」
「めっちゃさみしー」
黙れクズ。
嫌いなら放っておいてくれればいいのに、部活を辞めても彼女たちは突っかかってきた。
私が廊下で、カバンの中から何かを取り出そうとしゃがんでいたらスカートをわざと踏まれたし、給食が入っている大きな箱で体当たりしてくることもあった。
——学校にいる限り、私は逃れられない。
絶望した。
孤独を紛らわそうと空想の世界にたくさん友だちを作ったけど、被害妄想がどんどん膨らみ私の邪魔をした。
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あなたは私に目で笑いかける
私はあなたを心で抱きしめる
言葉はいらないと教えてくれた
世界は広いと教えてくれた
あなたがいるから、私は生きる…
突然、世界がグレーに染まった。
ガラスの派手に割れる音が遠くで響いた。
全てがただの空想だと思い出す。
私は独りぼっちなんだと思い出す。
心が冷える。目頭が熱くなる。
それでも私は、瞼の奥にしかいないあなたに向かって、必死に叫ぶ。
——私を孤独から連れ出して。
——全部嘘だったと言って。
——私を裏切らないで。
——大丈夫だよって、私を安心させて…
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返事はない。
私は目を開く。
温度のない涙が、頬を静かに伝った。
私は部活だけでなく、クラスにも居場所がなかった。
みんなと同じになることばかり考えて、それが不可能だと気づくともっと絶望した。
ずっと下を向いていたし、自己嫌悪は習慣になった。
耐えられなくなったら手首を切る。切って切って、大嫌いな自分を懲らしめる。
ずっと憂鬱に浸っていた。独りで。
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誰を信じよう
何を信じよう
私は何を求めているのだろう
何のために、この壊れた心で生きているのだろう
明日がこわい。
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でも、そんな私にも、小さな希望が1つあった。
音楽だ。
ある韓国のグループアーティストに心を奪われた。
中1の冬。
久しぶりに人間の感情が戻ってきた気がした。
若者の孤独を丁寧に描写した歌詞。
頭から離れない中毒性のあるメロディー。
映画のような美しいミュージックビデオ。
——すごい。かっこいい。
一瞬で彼らの虜になった。
孤独なんて、学校のことなんて、全て忘れられた。
私の心にそっと寄り添ってくれた。
この出会いが、私を正しい道に戻してくれた気がする。
——音楽の道に進みたい。
私は初めて、夢ができたのだった。
2年生になると、同じアーティストを好きな友だちができた。
その年が、中学で一番楽だった。
バレー部員からの嫌がらせは減った。
私は、担任の先生が大好きだった。
とてもパワフルでポジティブでタフな女性の先生。
私の話をたくさん聞いてくれた。
どんな話も、私を私として受け止めてくれた。
私という一人の生徒を理解しようとしてくれた。
先生が何か間違えた時は、生徒を相手に謝る人だった。
——こんな大人もいるんだ。ごめんって、子どもに
素直に言う人もいるんだ。
私は久しぶりに誰かを信頼した。
今でも、尊敬できる大人の1人だ。
中2だったこの頃のクラスは、女子の仲がよかった。
多くの子が私を大事にしてくれた。
初めてクラスの打ち上げに参加したり、年賀状を交換したり、恋の話をしたり。
今思えば、この年が一番楽しかった。
ただ、このクラスには1つ、問題があった。
いじめ、のようなものがあった。
クラスで1人、よくからかわれている男子がいた。
たしかに変わり者だった。
誰も彼と話したがらなかったし、席も近くになるのを嫌がった。
私が言いたいのは、もしあれがいじめだったなら、私は加害者だった、ということだ。
小学生の時は、私はいじめを1人で止められる子だった。
でも学校に行くのが苦しくなって、中学生になってから部活で仲間外れにされて、みんなと同じでいられない恐怖を知った。
だから。
私は彼を助けなかった。
しかも。
みんなと同じように、彼を殺すセリフを吐いた。
今でもよく覚えている。
彼が、魂が抜けたような目で、私を見たことを。
ごめんなさい。
助けられないなら、せめて何も言うんじゃなかった。
中学時代の最大の反省は、この出来事だ。
もう二度と繰り返さない。絶対に。
秋になると、私はダンスを始めた。
小さい頃ダンスに夢中になっていたのを、好きなアーティストを見ながら思い出した。
初めてスタジオに行ってから一週間くらいは、ほぼ毎晩、ダンスの夢を見た。
そのくらい情熱的になっていたのを覚えている。
3月には、ステージでパフォーマンスをした。
会場にいる人たちはみんな派手でおしゃれで、自分に自信がありそうな人ばかりだった。
その日私は、「表現」が自分の天職なんじゃないかと本気で思った。
ステージで、信じられないほど表情が和らいでいたのだ。みんなに注目される中で、派手な衣装とメイクでパフォーマンスをする。歓声がとても気持ちよかった。
——ダンサーになりたい!
強く、強くそう思った。
これを仕事にしたい。ダンスで生きていきたい。
メイクとファッションで、自分に自信を持てた。
表現するのが好きだ、と気づいた一日だった。
来月から受験生になるというこの頃。
中学最後のクラス替えが不安だった。
最後くらい、好きな人と同じクラスになりたいな、と思っていた。
中3の始業式は、絶望で終わった。
私を馬鹿にする男子たちと、同じクラスになった。
小学生の時に私を仲間外れにしたグループの子と、バレー部員の何人かも同じクラスにいた。
もちろん、好きな人とは違うクラス。
中学の最後にこれか。
気が遠くなりそうだった。
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すべてが必然だったなら
もう少し生きていないと笑える日は来ない
生きる意味がわからない
もう傷つきたくないの
傷つくのがこわくて常に最悪を想像して
心がもっと壊れていく。
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でも私は、女子とはかなり上手くやった。
本物の友だちも1人できたし。
担任は若い男性の体育の先生で、とても優しく、愛のある人気者だった。私も好きな先生だった。
5月に行った修学旅行は特に楽しくはなかったけど、その後、少しずつクラスは楽しくなっていった。
なぜ、楽しいままで終われなかったのか。
私が小4の時から恋をしている彼とその周りの奴らに、急に差別発言をされるようになったからだ。
なんて言われたかは絶対に言わない。
吐きそうだから。
こんなに苦しいことがあるのか、というくらい苦しかった。
どうして、私なの。私が何かした?
どうして、どうして、どうして。
廊下ですれ違うたびに、私に聞こえるように暴言を吐かれた。
私に言っている、と確信するには時間がかかったけど、彼らは私に言っていた、と思う。
不思議で仕方なかった。
私は彼と、小学校を卒業してから一度も会話をしていない。
そして彼の周りの奴らとは、小学校も違うし中学のクラスも違ったから、フルネームすら知らなかった。
でも、彼と仲の良い男子で、私に優しくしてくれる人もいた。
私の好きな彼は、一緒にいる友だちによって、私への態度が変わった。
何が起こっているんだろう。
私のことを嫌いなのか、好きなのか、それとも私に好かれていることに気づいてるだけなのか。
絶望と希望を気が遠くなるほど繰り返す。
信じて疑ってを限界まで繰り返す。
腹痛がひどくなった。
過敏性腸症候群という病気らしい。
まともに授業に出られなくなった。
それでもみんなは、笑顔で過ごしている。
いいな。
誰にも聞こえるように悪口を言われない毎日なんて、贅沢だね。
中2の時の担任の先生が、中3の夏休みを過ぎるとみんな大人になっていく、と言っていた。
だから私は、彼らが私を侮辱するのを、夏休み明けくらいからやめるだろうと思っていた。
思っていた、というか願っていた。
そうであってくれ、と。
でも、もっとひどくなった。
体育祭の練習中、私が泣きながら足の痛みを訴えて担架で運ばれると、私に聞こえるように笑われた。
バレー部員の、「なんで笑ってんの〜」と自分も笑いながら男子たちに声をかけているのが、担架で運ばれながら聞こえた。
恥ずかしい、という気持ちでいっぱいだった。
足より、心臓とお腹が痛い。
ショックで心拍数がすごかった。
ストレスでお腹がひどく下った。
合唱祭では、私のクラスの番になってステージに向かって歩いていく時、私が通ると例の差別発言をされた。
ひな壇に立つと、歌いながらでも聞こえてくるくらい、楽しそうに私を馬鹿にしている彼らが見えた。
私、何してるんだろう。
私はまだ、彼を好きなんだろうか。
もしそうなら、なぜ好きなんだろうか。
いつ、この地獄の毎日は終わるんだろう。
冬休みが終わったら、みんな受験勉強に忙しくなって、私のことなんか忘れてくれるのかな。
そうだ、受験だ。
私には、行きたい高校などなかった。
よくお腹が痛くなるから、近い所がいいと思い、近所の2校に夏休みに見学に行った。
高校はとても楽しい、とママがよく言っていたし、中学の先生たちもそう言っていた。
だから私は、早く高校生になりたかったし、見学をとても楽しみにしていた。
でも。
2校とも最悪だった。
在校生に、「ガイジン」「コクジン」と笑われた。
他の中学から見学に来ていた人にも、ジロジロ見られたり、ひそひそ話をされたりした。
——高校もこんな所なんだ…
目の前が真っ暗になっていく。
どこにも、私に居場所なんてないのかもしれない。
どうしよう、高校に行きたくない。
でもまだ就職もしたくない。
どうしよう…
たくさん悩んで、夏休みにママと色々調べていると、国際科のある公立高校を見つけた。
国際科。
すぐに興味が湧いた。
家からは少し遠いけど、秋のオープンスクールに行くことが、大きな希望に感じられた。
実際、オープンスクールはとても楽しかった。
国際科の先輩たちは、みんな英語で堂々とプレゼンをしていてかっこよかったし、仲が良さそうだったし、誰も私を馬鹿にしたり、笑ったりしなかった。
普通科の在校生でさえ、私を見下さなかった。
——この学校に行きたい。国際科に入りたい。
一瞬で志望校が決まった。ママも、国際科が私に合うと確信してくれたみたいだった。
ただ、私は欠席日数が多いので、国際科に受かるためには内申点が足りていなかった。
担任の先生は私を応援してくれたけど、12月に出る内申点を上げるために、死ぬ気で勉強しなさい、と言った。
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勝ち取りたいの
不安だけど 自信もないけど
乗り越えたらきっと 今より強くなれるはず
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私の受験に対する情熱は変わらなかった。
毎日悪口を言われたけど、国際科に行けるならもういい、と勉強に励んだ。
本気で行きたい高校だからこそ、内申が出る日はとても緊張した。
1人ずつ、担任から紙を受け取る。
私は内申書を見て、放心状態になった。
5点も、合格ラインより低かった。
——うそ…私、国際科に行けない。
視界が、ぐらっと揺れたような気がした。
国際科に行けない。高校生になれない。
泣いて泣いて、たくさん泣いた。
どうしよう、せっかく居場所を見つけた気がしたのに…
私は担任の先生に、泣きながら、
「私、国際科行けないんですか」と聞いた。
先生は残念そうに、「ちょっと厳しいね」と言った。
唯一の希望が、消えていく。
私はみんなと違って私立校と併願ができないから、確実に受かる所を選びたかった。
ママは、自分のレベルに合った高校を受けよう、と言った。
たくさんたくさん、その日は泣いた。
でも、私の情熱は本物だったらしい。
内申点が足りてなくても、諦めなかった。
私は国際科を受けると決めた。
国際科にしか行きたくない。
死ぬ気で、本気で勉強した。
1月からは、ゾーンに入っていたのだと思う。
何時間も集中して勉強したし、ストレスに感じなかった。
本気で勉強している、その瞬間が楽しかったのを覚えている。
学校で行われた進路指導の会議では、先生たちの間ではやっぱり、私が国際科に受かるのは厳しい、という話になったそうだ。
でも担任の先生は、私を心配しながらも応援してくれた。
「定期テストや学力調査の点数はとれてるから、内申は低いけど本番の点数と面接次第だね」と励ましてくれた。
英語が得意な私は、受験本番で満点を取ることを目標にし、大の苦手な数学は基礎問題だけは落とさないように対策をした。
面接ではA評価を目標に練習した。
受け答えは得意だったし、模擬面接は信じられないほど上手くいった。
——私、やれるかも。
この調子で逆転合格できたらいいな。
そう思って、毎日がんばった。
先生も家族も応援してくれている。
とても心強かった。
そして受験本番。
朝から緊張していたから、試験中にお腹が痛くならないか心配だった。
ママに学校の前まで一緒に来てもらった。
「いってらっしゃい」
そう言って手を振るママと別れて、校舎に入る。
不思議と緊張は解けて、楽しみな気持ちが膨らんできていた。
席に着いて、試験が始まる直前も、かなり落ち着いていた。
———あれだけ勉強したんだから、大丈夫。
そう自分に言い聞かせた。
1日目の学力検査は、上出来だった。
終わってからママに電話で、「受かった!」と言ったくらいだ。
2日目の面接は死ぬほど緊張した。
集団面接では噛みまくった。
個人面接では、入室後にドアを閉め忘れて、面接官にドアを閉めてもらえますか、と言われた。
やっちゃった…と思ったけど、ここでめげちゃダメだ思い、失礼しました、とすぐに気を取り直した。
そして個人面接が終わるとき、ママが言っていたことを思い出した。
「本気で行きたいって、アピールしてきな」
私は面接官に、退出してくださいと言われた後、勇気を出してこう言った。
「私は、本気で国際科に入りたいと思っています。貴校で、なりたい自分に向かって努力していきたいです。ぜひ、よろしくお願いします」
いや、ちょっと違うセリフだったかもしれないけど、とにかく熱意をアピールした。
これで落ちても悔いはない、と思えるくらいに。
面接官は何も言わず、にっこり笑って私を見ていた。
この頃はコロナウイルスが広まり始めていたので、入試の後は休校だった。
合否が出るまでの一週間は、少し長く感じた。
そして、合格発表当日。
コロナのせいで、例年のように高校で受験番号を確認するのではなく、不合格者に中学校から電話がくる、という形になった。
午後3時までに電話が来なければ合格、ということだった。
私は、ずっとママのそばにいた。
携帯に何かの通知が来ると、とても焦った。
——受かりたい。
気づけば3時は過ぎていた。
電話がなければ合格って、とても変な感じだ。
実感が湧かないままママと抱き合って、制服に着替えて中学校に行った。
電話のこなかった生徒たちが、合格証をもらいに登校してくる。
先生たちが、昇降口で笑顔で出迎えてくれた。
私が国際科に受かったのを知って先生たちは、がんばったね、と言ってくれた。
そうだ、私はがんばったんだ。
教室で、担任の先生から合格証をもらう。
国際科、自分の名前、合格、の文字を見て、感動で胸がいっぱいになった。
先生は涙目で、「ほんとによかった」と言ってくれた。
———先生が私を信じてくれたから。
本当にありがとう。
心の中でそう言った。
私は、国際科に合格したんだ。
来月から通うんだ。
制服の採寸も、教科書を買うのも、とても楽しかった。高校生になれるんだな、と思うと何度でもわくわくした。
中学の卒業式は、コロナウイルス感染拡大防止のために、とても短く行われた。
その日、私は彼を見ていた。
今日がきっと、彼に会う最後の日になる。
まだ恋をしているのか、わからなかった。
もちろん一言も話さなかった。
中学3年間、少しも会話をしなかった。
じゃあなぜ、私は彼を好きだったんだろうか。
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夜になれば、きっと君を思い出す。
もういないのは分かっている。
ただ、恋しくなってしまう。
ここに来て、抱きしめてほしいと思ってしまう。
好きだと言ってほしいと思ってしまう。
こうなるなら、ずっと仲のいい友達でいればよかった。
好きな人の好きな人は、私ではない。
私が君の好きな人なら、どれだけ幸せだろう…
会いたいのに、会いたくない。
「大好きだけど大嫌い」の意味がよくわかった、
中学3年生の恋だった。
好きな人に攻撃されるのが、こんなにも
苦しいものなんだと知った。
恋なんて、いいことなんか1つもない。
好きな人に大事にされなくても、なかなか忘れられず、本気で憎む事もできない私は、やっぱりふつうじゃないんだと思う。
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そんなことを思いながら、たくさんの絶望と少しの感動を味わった中学校の校舎を出て、ママと2人で家に帰った。
不思議と、さみしいな、と思っていた。
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