3
小学3年生の冬、人生が一変した。
人生、いつ何があるかわからないと実感した日。
家族なんて簡単に終わってしまうと絶望した日。
でも、お姉ちゃんらしく頑張ろう、と思った日。
当時9歳。
その時はまだ、心が壊れかけていることには気づかなかった。
すでに心に深い傷を負っていることにも。
私は、いつも笑顔で、明るくて活発な子だった。
みんなからは、
「おもしろい」
「優しい」
「ムードメーカー」
「運動神経がよくてうらやましい」
などと言われていた。
それと同時に、
「ガイジン」
「コクジン」
「アフロ」
「ゴリラみたい」
「君肌黒いね」
などと差別発言もよくされた。
たしかに傷ついたけど、あまり気にしなかった。
自分に自信があったから。
誰とでもすぐ友だちになれる社交性があったし、みんなを笑わせるのは得意だし、誰よりも走るのが速かったから。
私は強かった。
当たり前の毎日が急に崩れたその時も、私は前を向いていた。
ママを支えよう。
お姉ちゃんらしくいよう。
新しい場所でうまくやっていこう。
仲の良かった友だちとも、住み慣れたあの町とも、さよならも言わずに突然お別れすることになった。
見慣れた景色は、急に消える。
小学4年生になった私は、新しい学校と町で、必死に生きた。
…誰にも言えない過去を隠しながら。
相変わらず私は明るくて、すぐにたくさんの友だちができた。
前にいた学校より、フレンドリーで優しい子が多かったのは嬉しかった。
でもその年の夏、ママは癌になった。
入院や手術などでとても忙しかったし、とても不安だった。
ママを失うんじゃないかってこわかった。
それでも私は強かった。
お姉ちゃんだから。
もう二度と家族が終わらないように、できることは全てやった。
学校も休まなかったし、運動会では活躍したし、友だちともいっぱい遊んで、家の手伝いもたくさんした。
大変だったけど、割とうまくいっていたと思う。
そして私はある日、恋をした。
給食の時間。
クラスの子たちが、私に「お父さんナニジン?」と聞いてくる。
「お父さん、いないんだ」
私は戸惑いながら、慣れない口調で笑って答える。
「え、いないの?!」
「リコン?ベッキョ?」
教室が少し盛り上がる。私は固まる。
その時、それを見ていた同じクラスの男の子が来て、優しくクラスメイトたちに言った。
「そういうことは聞かなくていいんだよ」
ドキッと胸が鳴る。
守ってくれた、と思った。
私はその男の子に、恋をした。
…この5年後に、悲劇が起こるのだけど。
5年生になると、クラスメイトとのトラブルで教室に行けなくなった。
グループから仲間外れにされてる子をかばったら、私が標的になった。
初めて、学校に行くのがしんどいと感じた。
でも学校は休まなかった。
保健室に登校して、行ける授業だけすまし顔で教室に行く毎日。
やっぱり、私は強かった。
好きな人と、自分を仲間外れにするグループの子が付き合い始めても、恨みはしなかった。
散々私に意地悪をしてきた子が、「一人になりたくない」と言って私に助けを求めてきたり、「酷いこと言ったりやったりしてごめんね。仲良くしようね!」と手紙を渡してきた時でも、私は冷静だった。
心が壊れかけているなんて、思いもしなかった。
6年生になると、クラスメイトにとても恵まれた。
6年4組の学級委員としてみんなをまとめ、信頼されるリーダーになった。
みんなと仲が良かったし、みんなをたくさん笑わせたし、もちろん運動会では活躍した。この年の夏に足を怪我で手術したので、スポーツで活躍できたのは6年の運動会が最後だった。
運動会は、6年4組の日である6月4日に行われた。これが私にとって人生で一番楽しかった日。
…でも。
小学校最後に、最高の思い出を作れそうなこのクラスを壊したのは、担任の先生だった。
担任の先生に、ものすごく傷つけられた。
授業中に私たちがする発言は、全て否定される。
少し何かを間違えると、舌打ちされる。
みんな、自分に自信を無くしていった。
クラスに活気がなくなっていく。
どうにかしたい、小学校最後のクラスをもっと楽しくしたい、なんとかして解決しよう、と必死に方法を考えた。
最初は、何人かで教頭先生に話して、クラスで話し合いをした。
担任がいる前で、クラスの子たちが勇気を出して、先生に直してほしいところを話した。
その日から3日間くらいは変化があった気がする。
その間、先生に傷つけられることはなかった。
でもすぐまた、話し合いをする前の日常に戻った。
学級委員だった私は、「あなたはリーダーになる資格がない」と怒鳴られた。
他の先生に何かを相談することも禁じられた。
そして。
修学旅行から帰ってきた次の日から、私は人生初の不登校になった。11月だった。
朝起きれない。
学校に行くのがこわい。
今までは、仲間外れにされても学校に行けたのに。
いじめも何度も止めてきたのに。
体が動かない。
私の心が悲鳴を上げていた。
この頃、私は大人を嫌いになっていた。
無理をするな、命を大事にしろ、と言うくせに、いざ苦しいと助けを求めても、先生たちは見て見ぬふりだったから。
この世は嘘で溢れている。
大人なんて嫌いだ。
誰を信じればいいんだろう。
でも私はまだ、強かった。
クラスはもう荒れていたけど、最後に思い出を作るために、卒業式に出るために、2月からまた学校に行った。
久しぶりに学校に行くと、廊下で好きな人に会って、またドキッと胸が鳴る。
彼とは隣のクラスだった。
「最近、学校来てないの?」と聞かれる。
「うん~、担任にいじめられちゃってさ」
私は笑って答える。
「おれが担任変えてあげたい」と彼が言う。
私の目を見ている。
恋に落ちた瞬間を思い出した。
彼は、たった一言で私の心を温めてくれる。
この人が好きだ、と私の心が言う。
この会話だけで、私の気分は明るくなった。
3月。
卒業式はさみしいものではなく、やっと担任から解放される、という喜びで終わった。
中学校はどんな所だろう。
好きな人となんとなく距離ができてることを感じながら、私は小学校を卒業した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます