小学3年生の冬、人生が一変した。


人生、いつ何があるかわからないと実感した日。

家族なんて簡単に終わってしまうと絶望した日。

でも、お姉ちゃんらしく頑張ろう、と思った日。


当時9歳。


その時はまだ、心が壊れかけていることには気づかなかった。

すでに心に深い傷を負っていることにも。




私は、いつも笑顔で、明るくて活発な子だった。

みんなからは、


「おもしろい」

「優しい」

「ムードメーカー」

「運動神経がよくてうらやましい」

などと言われていた。


それと同時に、


「ガイジン」

「コクジン」

「アフロ」 

「ゴリラみたい」

「君肌黒いね」

などと差別発言もよくされた。



たしかに傷ついたけど、あまり気にしなかった。


自分に自信があったから。

誰とでもすぐ友だちになれる社交性があったし、みんなを笑わせるのは得意だし、誰よりも走るのが速かったから。


 

私は強かった。


当たり前の毎日が急に崩れたその時も、私は前を向いていた。

ママを支えよう。

お姉ちゃんらしくいよう。

新しい場所でうまくやっていこう。


仲の良かった友だちとも、住み慣れたあの町とも、さよならも言わずに突然お別れすることになった。


見慣れた景色は、急に消える。




小学4年生になった私は、新しい学校と町で、必死に生きた。

…誰にも言えない過去を隠しながら。


相変わらず私は明るくて、すぐにたくさんの友だちができた。

前にいた学校より、フレンドリーで優しい子が多かったのは嬉しかった。



でもその年の夏、ママは癌になった。

入院や手術などでとても忙しかったし、とても不安だった。

ママを失うんじゃないかってこわかった。



それでも私は強かった。


お姉ちゃんだから。

もう二度と家族が終わらないように、できることは全てやった。

学校も休まなかったし、運動会では活躍したし、友だちともいっぱい遊んで、家の手伝いもたくさんした。

大変だったけど、割とうまくいっていたと思う。



そして私はある日、恋をした。


給食の時間。

クラスの子たちが、私に「お父さんナニジン?」と聞いてくる。

「お父さん、いないんだ」

私は戸惑いながら、慣れない口調で笑って答える。


「え、いないの?!」

「リコン?ベッキョ?」


教室が少し盛り上がる。私は固まる。


その時、それを見ていた同じクラスの男の子が来て、優しくクラスメイトたちに言った。

「そういうことは聞かなくていいんだよ」


ドキッと胸が鳴る。


守ってくれた、と思った。



私はその男の子に、恋をした。


…この5年後に、悲劇が起こるのだけど。





5年生になると、クラスメイトとのトラブルで教室に行けなくなった。

グループから仲間外れにされてる子をかばったら、私が標的になった。

初めて、学校に行くのがしんどいと感じた。


でも学校は休まなかった。

保健室に登校して、行ける授業だけすまし顔で教室に行く毎日。

やっぱり、私は強かった。


好きな人と、自分を仲間外れにするグループの子が付き合い始めても、恨みはしなかった。


散々私に意地悪をしてきた子が、「一人になりたくない」と言って私に助けを求めてきたり、「酷いこと言ったりやったりしてごめんね。仲良くしようね!」と手紙を渡してきた時でも、私は冷静だった。


心が壊れかけているなんて、思いもしなかった。





6年生になると、クラスメイトにとても恵まれた。

6年4組の学級委員としてみんなをまとめ、信頼されるリーダーになった。

みんなと仲が良かったし、みんなをたくさん笑わせたし、もちろん運動会では活躍した。この年の夏に足を怪我で手術したので、スポーツで活躍できたのは6年の運動会が最後だった。


運動会は、6年4組の日である6月4日に行われた。これが私にとって人生で一番楽しかった日。


…でも。

小学校最後に、最高の思い出を作れそうなこのクラスを壊したのは、担任の先生だった。

担任の先生に、ものすごく傷つけられた。


授業中に私たちがする発言は、全て否定される。

少し何かを間違えると、舌打ちされる。


みんな、自分に自信を無くしていった。


クラスに活気がなくなっていく。


どうにかしたい、小学校最後のクラスをもっと楽しくしたい、なんとかして解決しよう、と必死に方法を考えた。


最初は、何人かで教頭先生に話して、クラスで話し合いをした。

担任がいる前で、クラスの子たちが勇気を出して、先生に直してほしいところを話した。


その日から3日間くらいは変化があった気がする。


その間、先生に傷つけられることはなかった。




でもすぐまた、話し合いをする前の日常に戻った。


学級委員だった私は、「あなたはリーダーになる資格がない」と怒鳴られた。

他の先生に何かを相談することも禁じられた。



そして。

修学旅行から帰ってきた次の日から、私は人生初の不登校になった。11月だった。


朝起きれない。


学校に行くのがこわい。


今までは、仲間外れにされても学校に行けたのに。 

いじめも何度も止めてきたのに。



体が動かない。

私の心が悲鳴を上げていた。

 


この頃、私は大人を嫌いになっていた。


無理をするな、命を大事にしろ、と言うくせに、いざ苦しいと助けを求めても、先生たちは見て見ぬふりだったから。


この世は嘘で溢れている。 

大人なんて嫌いだ。


誰を信じればいいんだろう。



でも私はまだ、強かった。


クラスはもう荒れていたけど、最後に思い出を作るために、卒業式に出るために、2月からまた学校に行った。



久しぶりに学校に行くと、廊下で好きな人に会って、またドキッと胸が鳴る。

彼とは隣のクラスだった。


「最近、学校来てないの?」と聞かれる。

「うん~、担任にいじめられちゃってさ」

私は笑って答える。


「おれが担任変えてあげたい」と彼が言う。

私の目を見ている。


恋に落ちた瞬間を思い出した。

彼は、たった一言で私の心を温めてくれる。

この人が好きだ、と私の心が言う。



この会話だけで、私の気分は明るくなった。






3月。


卒業式はさみしいものではなく、やっと担任から解放される、という喜びで終わった。

 


中学校はどんな所だろう。




好きな人となんとなく距離ができてることを感じながら、私は小学校を卒業した。

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