第40話


 2人でお揃いの浴衣に着替えてから、温泉街を散策する。

 夕飯の時間まであまり時間がないため、特に行きたいお店を絞って回っていた。


 名所である紅葉を眺めてから、足湯に浸かる。


 この旅のためにペディキュアを塗っていたため、そこを褒められた時はつい頬を綻ばせてしまっていた。


 続いて、先程エマが行きたがっていた喫茶店に入る。


 レトロな雰囲気が観光客の間で話題らしく、二人でコーヒーとチーズケーキを注文していた。


 生クリームが側に添えられていて、深みのあるコーヒーの香りがケーキの甘さと抜群に合っている。


 「…美味しい?」

 「うん、昔ながらの味で最高」


 ニコニコと嬉しそうにフォークを加えるエマを、こっそりと写真に収める。


 浴衣姿の彼女はいつにも増して可愛らしく、思い出に残したくなってしまったのだ。


 既に何枚も写真は撮っているが、愛来だけしか知らない、デート中のエマの無防備な写真も欲しくなってしまっていた。






 一度旅館に戻れば、既に客室のテーブルにはご飯が用意されていた。


 刺身に天ぷら、他にもしゃぶしゃぶなど、様々な料理が盛り付けられている。


 当然味も申し分なくて、あっという間に平らげてしまっていた。


 食後に緑茶を飲んでホッとひと息付いていれば、エマの言葉に身を固くさせる。


 「お風呂入る?」

 「……うん」


 彼女が浴衣の帯を解く音が、やけに大きく聞こえてしまう。


 緊張から心臓の音が一気に速くなる中、エマはさっさと服を脱ぎ捨ててタオルに包まってしまった。


 「…先行ってる。待ってるから」


 僅かに震える手で帯を解いて、そっと肩から浴衣を落とす。

 

 「…緊張する」


 まだ互いの体を晒したことは一度もない。

 勇気を出して、ブラのホックを外す。


 ショーツに指をかけて、スルスルと足首のところまで下げた。


 「……ッ」


 明るい所で裸になる状況が堪らなく恥ずかしくて、慌てて体にタオルを巻く。


 扉を開いて、先に檜風呂に浸かっている彼女の元まで足を進めた。


 掛け湯をして、一人分ほど空間を空けてエマの隣に座る。


 お湯は丁度いい温度で、胸元辺りまで浸かればみるみるうちに体が温まっていく。


 「…あったかい…」

 「源泉掛け流しが売りだからね」


 個室風呂なため、当然二人だけの空間。

 エマの方を見る事ができず、ずっと自身のつま先を眺めていた。


 「…恥ずかしい?」


 頷けば、エマが少し声を震わせながら言葉を続ける。


 「私も…死ぬほど恥ずかしい」

 「エマが?」

 「…自分でも驚いてるよ。あれだけ平気だったのに、愛来だったらこんなにドキドキするんだって」


 先ほどのように、キュッと手を取られてエマの心臓付近に触れさせられる。


 「ね、ドキドキしてるでしょ」


 愛来と同じくらい、エマの心臓も早く高鳴っていた。

 同じように彼女の手を取って、勇気を出して自身の胸元付近に押し付ける。


 「私だって…ドキドキしてる」


 滑ったフリをして、わざとその手を右胸に当てる。

 タオル越しに、柔らかい胸をエマの手に押し当てていた。


 「……だめ?」


 腕を掴まれて、そのまま優しく抱き付かれる。

 彼女の温もりに包まれながら、胸をキュンキュンと高鳴らせていた。


 肩に触れた彼女の吐息は、興奮しているのか普段の何倍も熱く感じる。


 「下は触らないよ」

 「なんでそんなに拘るの…」

 「大人としてのけじめだから」


 彼女の濡れた手が、愛来の頬に優しく添えられる。


 「本気で愛来が好きなの。大切にしたい」

 「…ッ」

 「途中までしか触ってあげられないけど…それでもいいの?」


 たとえ焦らすような手つきだったとしても。

 中途半端にしか快感を与えられなかったとしても、エマと触れ合いたい。


 頷けば、首筋に口付けられる。

 続いて耳たぶに舌先が移った後、優しく唇を奪われた。


 体に巻いていたタオルが解かれて、床に放られる。

 何も身につけていない裸体を見られて、羞恥心で全身を赤く染め上げていた。


 手のひらが太ももを優しくなぞってから、今度は胸を包み込まれる。

 

 「ンッ…っ…ッ…」


 個室なのだから気にしなくていいと言うのに、野外ゆえの羞恥心で必死に声を押し殺していた。


 そっと舌を出せば、彼女の舌で絡め取られる。


 名前を呼べば手を握られて、体を擦り寄せ合いながらピッタリと密着させていた。


 好きな人と触れ合う肌の感触。


 柔らかい感触に、彼女の熱い体温に。


 あまりにも心地良すぎて、快楽でとうとう声を我慢出来なくなってしまう。


 「ンッ…んっ、エマッ…あッ、あぅ…」


 はしたなく甘い声を上げながら、彼女に最後までされてしまったらどうなるのだろうと、考える。


 その日が楽しみだけど、少し怖い。

 彼女によって愛来が感じられる最大の快感引き出されてしまえば。


 その心地よさを、知ってしまえば。


 きっと、愛来は二度とエマから離れられない。







 

 一つの布団の上で、浴衣を着ずに下着姿のまま彼女と共に横たわる。

 

 隣にもう一式布団は敷かれているにも関わらず、ピタリと体を絡ませ合いながら横たわっていた。


 淡い紫色の下着が、彼女にとても似合っている。


 「ごめんね、一泊で…」

 「私も明後日学校だし…エマも配信があるでしょ…そういえば、エマってどうしてVtuber始めたの?」

 「元々は生放送の配信者だったの。喋るの好きで…まあ、一番は顔出さなくても評価されるのが嬉しくてさ」


 ジッと耳を傾ける。

 話している最中、エマはいつものように髪を優しく梳いてくれていた。


 「…ハーフってだけで目立つし…自分で言うのもあれだけど見た目派手だから。何しても容姿が評価に関係するのが嫌だった」

 「そっか…」

 「けど配信だと顔を隠していても、応援してもらえて…ありのままの自分を見てもらえるような気がした」


 自分と似た悩みを持つ彼女に掛ける言葉は、驚くほどすんなりと浮かんできた。


 「…私は、エマの性格大好きだよ」

 「……知ってるよ」


 額にキスを落とされた後、エマは愛来を安心させるように、優しい声色で言葉をくれた。


 「卒業したら、一緒に暮らそう」


 ジワジワと涙が込み上げてきて、咄嗟にエマの胸元に顔を埋める。


 本当は、離れるのが寂しくて仕方なかった。


 会おうと思えば会える距離だけど、毎日一緒にいたせいで今更離れるなんて考えられない。


 彼女への愛おしさに胸を震えさせながら、温もりに癒しを感じる。


 一日でも早く、再びエマと一緒に暮らせる日を夢見て、愛来はそっと眠りについた。

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