第35話


 無事に生理を終えて、元気を取り戻した愛来はいつも通り家事に励んでいた。


 色々とお世話になったお礼も込めて、普段より丁寧に掃除をする。


 ウォークインクローゼットの中も綺麗にしようと、軽く掃除機を掛けている時だった。


 小さなボックスの中に仕舞われた、丁寧に畳まれている布切れの存在に気付いて、恐る恐る手を伸ばした。


 「これ…」


 以前も見たことがある、エマのランジェリーだ。


 エマが着る時もあれば、セフレが着る時もあると言っていた。


 淡い水色のランジェリーを手に取って、ふとある想像をしてしまう。


 「…ッ」


 肌の白いエマが着れば、きっと水色が映えて綺麗なのだろう。

 スケスケの素材を着ていやらしくベッドに寝転ぶ姿を想像して、カッと頬が熱くなる。


 きっと酷く扇情的で綺麗なのだ。


 そんな彼女から体を弄られて、可愛がってもらった人は沢山いる。


 「…いいな」


 愛来だってエマに触れたい。

 愛の言葉を囁かれて、身も心も彼女に委ねてしまいたい。


 最近は、キスもしてくれない。

 唇の感触を…彼女の舌の熱さを知っているからこそ、体は求めてしまう。


 「これ着たら、少しは大人として扱ってくれるかな…」


 高校生の子供にはキス以上のことはしない。

 そのキスすらしてもらえなくなった今、どうすればいいのだろう。


 こっそりランジェリーを持ち出して、手にしたままベッドに横たわる。


 スンと香りを嗅げば、柔軟剤の良い香りがした。


 目を瞑って、あの時の感触を思い出す。

 酔っていたエマが、愛来の上半身を蹂躙した時のこと。


 脇腹をくすぐられて、下着を押しのけて胸に触れられた。


 「んっ…」


 ダメな事だと分かっているのに、欲を抑えられない。

 背中に手を回して、自らブラのアンダーホックを外していた。


 心をドキドキと高鳴らせながら、そっと自身の胸に触れる。


 僅かに指を震えさせながら、ツンと立ち上がった突起を摘んだ。


 「…ッ、エマぁっ…」


 グニグニと弄られた感触を思い出して、段々と体が熱っていく。


 息を荒くさせながら、夢中で弄っていた。

 本当は本人に触って欲しいのに。


 段々と息を荒くさせながら、手のペースを早める。


 エマがいなくて良かった。

 こんな所見られたら、なんて言い訳すればいいか分からない。


 更なる快楽を求めて、そのまま下半身にも手を伸ばした時だ。


 「んっ…ッ、エマッ…」

 「え……」


 突如聞こえて来た声に、驚いて目を開く。

 恐る恐る視線をやれば、扉の方で呆然と立ち尽くす彼女の姿があった。


 コンビニの袋を手にしている彼女の姿に、羞恥心で全身を染め上げる。

 

 服に手を入れて、必死に胸をいじって。

 もう片方の手は下半身に触れようと伸ばしている最中を見られてしまったのだ。


 言い訳のしようがなく、このまま死んでしまいたいくらいの羞恥心に襲われていた。

 

 エマも動揺しているようだが、必死に平静を装ってくれていた。


 「えっと……何してるの」


 彼女の名前を呼んでいたことも、きっと聞かれてしまっている。

 言い訳のしようがなく、恥ずかしさのあまり涙までこみ上げて来た。


 こっそりと持って来ていたランジェリーを、ギュッと握りしめる。


 羞恥心が限界まで達してしまったせいで、気づけば可愛げのない言葉を吐いてしまっていた。


 「……エマが、散々触ったんじゃん」

 「え……」

 「キスも、胸触られる感覚も…全部エマから教えられたのに、急に全く触んなくなって…」


 ちっともこちらを意識してくれず、女として見てくれない。


 そのもどかしさから、絞り出すように声を漏らす。


 「……なんで触ってくれないの」


 高校生だから、子供扱いされているのだろうか。

 やるせなさから一筋涙を流した時、突然ベッドに押し倒される。

 

 「あんまり煽んないで…」

 「エマ…?」

 「こっちは必死に我慢してんのに」

 「んっ…んぅっ…ッ」


 強引に唇を奪われて、そのまま舌を差し込まれる。

 驚いて縮こまっている愛来の舌を突いた後、彼女の舌がいやらしく動き始めた。


 擦られる感覚に合わせて、くぐもった声が漏れる。


 裏筋を優しくなぞりあげられる感覚も、いやらしく舌を絡め合う快感も。


 「ンッ……、あァっ、アッ」


 久しぶりの心地よい快感に、このまま溺れてしまいたい欲求が込み上げる。


 もどかしさから太ももを擦り合わせていれば、そこに手を伸ばされた。


 下半身にはまだ直接触れられたことがない。

 期待と緊張で身を堅くさせれば、パッと彼女の体が離れていく。


 「……もう満足したでしょ」

 「エマ…」


 目線も合わなくなって、込み上げてくるのは罪悪感だった。


 わがままを言って、嫌われたのではないかと、不安で堪らないのだ。


 「……私の体、よくなかった…?」

 「は……?」

 「胸も普通で、大きくないし…経験ないから、キスだって上手に出来ない」


 気が強く、全く素直になれない自分が、こんなにも情けなく誰かに縋っている。


 エマ相手であれば簡単に弱みを見せて、見栄を張ることも忘れてしまう。


 「体ちょっと触られるだけで、変な声出しちゃうし…う、うるさかった?」

 「愛来、落ち着いて」

 「……うるさいなら、声出さないように我慢するから…だから、私のことセフレみたいに可愛がってよ…」


 ポロポロと瞳から涙を零れ落とせば、ギュッと体を引き寄せられる。

 下着は外したままなため、胸を押しつぶされる感覚がいつもより強く感じた。


 情けなく零れていく涙を、エマが優しく拭ってくれる。


 「……キャンキャン吠えた次は、クンクン泣いちゃうのか」

 「だって………」

 「愛来の体が良くないわけないでしょ。綺麗で肌触りも良くて、敏感で、可愛くて仕方ない」

 「……ッ」

 「私の指の動きで喘ぐ声が、うるさいわけないじゃん。寧ろもっと聴いていたいよ」

 「じゃあ、なんで…」

 「言ったでしょ」


 サラサラと優しく髪を撫でてくれる。

 エマに触れられるだけで心は嬉しくて、性的な触れ合いじゃなかったとしても幸せな気持ちにさせられるのだ。


 「愛来はセフレじゃないの。こんなにも可愛い女の子を…中途半端に手出せない」

 「…でも、キスだってしてくれない…」

 「タバコ吸わなくても平気になったんだから、する必要ないよ」

 「……私は、したい」


 勇気を出せば、困ったように彼女が眉根を寄せる。


 「……ちゅーしたいよ、エマ」


 お願いをすれば、再び唇に柔らかいキスが注がれる。


 幸福感に包まれながら、エマは愛来をどう思っているのだろうと考える。


 ただの親戚の女の子か。

 年下の女子高生か。


 あるいは、また別の何かなのか。


 もし愛来の気持ちに気づいていたとしたら、このキスには少しでも特別な感情が込められているのか。


 「もっと…」


 強請れば、口内に柔らかいものをねじ込まれる。深い口づけに心を翻弄されながら、エマの特別になりたいという願望が更に膨らんでいることに気づいた。


 どんどん我儘に、よく深くなってしまっているのだ。

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