第6話


 600Wで5分ほど温めた冷凍パスタをお皿に盛って、彼女共に食卓を囲む。

 滅多に口にしたことはないが、中々に味は美味しかった。


 10個ほど入っていた冷凍パスタは全てアラビアータ味。

 器用にフォークでクルクルと巻きつけてから、口内へ運んでいく。

 

 チラリと向かい側に座っている彼女に視線をやれば、相変わらず綺麗なルックスをしていた。


 「エマは恋人いないの?」

 「いないよ。セフレはいるけど」

 「せ、セフレって…」


 それが何の略称か知っているからこそ、反射的に頬を赤らめてしまう。


 「へえ…」


 予想外の反応だったのか、興味深そうにエマが含みのある笑みを浮かべていた。


 テーブルの下で、彼女の足が愛来の太ももに触れる。


 器用に足の指でなぞられて、くすぐったさで身を捩った。


 「んッ…何すんの!」

 「今年もう17歳なのに、セフレって単語くらいで顔赤くしちゃうんだ」

 「うるさいっ…」

 「モテそうなのに、処女?」

 「何でもいいでしょ」


 デリカシーのない物言いに、可愛げのない返事を返す。

 

 ブロンドヘアにロシア人のハーフということもあって、堀の深い綺麗なルックス。


 幼い頃からこうして愛来を揶揄ってくる美人は、こちらの反応を見てニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべるのだ。


 しかし、そこから敵意やいやらしさは感じない。 

 決して、悪い人ではないのだ。


 「今日はどこで寝るの」

 「ソファ」


 噛み付くように言い返せば、ふくらはぎの裏側をもどかしい触れ方でくすぐられる。


 椅子を引いて、慌ててエマから距離を取った。


 「寒くなったらいつでも入っておいで」


 「左側開けとくから」と彼女が言葉を続ける。


 言い返そうか迷ったが、また彼女のペースで揶揄われてしまうような気がして口をつぐんだ。


 先ほど足でくすぐられた感覚を思い出して、つい太ももを擦り合わせてしまう。


 ゾワゾワとしたはじめての感覚に、心臓がバクバクと早く高鳴っていた。





 居候初日はあんなに警戒していたにも関わらず、意外なことに彼女との生活は中々に快適だった。


 夜更かしをしても口煩く言われず、お菓子も好きな時に食べられる。


 家事をするのは苦痛ではないため、清潔な広い部屋で悠々自適な生活を送っているのだ。


 風呂場は実家よりも広く、セキュリティ面も万丈なため何も心配ない。


 時々エマが外出がてらに有名スイーツ店のお菓子を買ってきてくれることが、最近では日々の楽しみになっているのだ。


 ただ、唯一気になることがある。


 「じゃあ、暫く静かにしてて」

 「…その部屋で何してるの」

 「エッチなこと」

 「最低」


 愛来の反応におかしそうに笑みを浮かべた後、エマはリビングから向かって右側の部屋へと消えて行く。


 週に2日ほど、夜になるとあの部屋に籠るのだ。


 一体何をしているのか分からない。


 しかし同居をスタートしたときに、「お互いのプライベートには干渉しないこと」と約束したのだ。


 「…本当、掴めない人」


 デリカシーがなく揶揄ってばかりくるけれど、決して悪意は感じられない。


 快適な生活の中であえて不満を敢えてあげるとすれば、タバコの匂いが移ってしまうことくらいだろうか。





 派手な見た目のせいで告白をされる回数が多いせいか、愛来は周囲から経験豊富だと思われている。


 友人からは頻繁に恋愛相談を受けて、そこまで仲良くない生徒からは彼氏持ちだと誤解されているのだ。


 過去に恋人がいたこともあるが、お付き合い期間は最長1ヶ月。


 恋人らしいことといえば手を繋いだくらいで、キスだってまだだ。


 不思議とそういうことをシようとするだけで、違和感が凄まじく出来なかった。




 学校での休み時間。友人からの恋愛相談を、愛来はいつも通りのらりくらりとかわしていた。


 「それでさ、俊くんデートといえばお家ばっかりなんだよ。信じられなくない?」

 「ヤリモクじゃん、別れたら?」

 「簡単に言わないでよ〜…ねえ、愛来はどう思う?」

 「……好きなら別に良いんじゃないの」


 経験豊富のレッテルを貼られているため、それっぽいことを口にしているが内心パニック寸前だ。


 同世代が性行為の話をしていることも、それを当たり前のように受け入れる友人らも。


 「愛来だったら可愛いから、そんな扱いされないんだろうね。あ、そういえばさ…」


 苦笑いを浮かべながら、話が逸れたことに胸を撫で下ろす。


 そもそも性行為は愚かキスだってしたことがないと言えば、友人らはどんな顔をするのか。


 なぜか恋愛経験豊富だと勘違いされているが、今更さらそれを訂正することも出来ずにいた。

 

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