指導

「失礼します」

入ってきたのは、田代先生だった。さっきまで、小宮先生が座っていた席に田代先生が来て座った。

「なあ、東山はもっと心の底から笑った方がいいぞ。」

田代先生は席に座るなり、春樹に真剣な顔を向けて言う。

「はい!?なんですか、いきなり」

「そんな、ムスッとしてるから、勘違いされんだよ」

「生徒に向かって、そんなこと言うもんなのかね…」

春樹はなんでこんなところに居ないといけないのだろうと思って落ち着かなかった。幸次と関わってしまったことで、最悪な高校生活を送る羽目になってしまった気がして、腹が立ってくる。

「まあ、松山がいじめは東山の指示だと言っていたんだ。」

貧乏ゆするがとまらない。

「何なんだよ、それ、松山の奴。ムカつく。人を馬鹿にしやがって」

「おい!! 」

 春樹を怒鳴るように言って続けようとする脊山先生を田代先生は振り払うように、

「東山、お前は岸山と一緒にいつも行動を共にしていた。松山のいじめが、岸本の単独ではないのはあからさまなんだ。関係ないとは言えないんだよ。」

 いや、そもそも、なんで春樹の指示だと思われたのかが分からないのだ。

「だからなんで、松山は俺の指示だと思ったの?」

「さあ、なあ。たぶん、お前は何も言わず。表情も変えず黙っていたことが、勘違いの元だったのかもしれないな。」

「何なんだよ。それ。」

「だから、とりあえず、東山、楽しいと思えるものを見つけて、笑えるようにしなさい」

「”笑え”って言われても、何をすんだよ。楽しいことって何?」

「知らん。そうしないと、将来、色んな人に勘違いされて生きることになるぞ。」

「知らんって、無責任すぎねえ。それに、俺は勘違いされもいいと思ってるけど」

「東山、お前は何も分かっていないなあ。」

「だから…」

「松山みたい、勘違いする人間なんて、これから先多く出会うぞ。いちいち、説明何てできないだろう。」

 田代先生が何が言いたいのか、さっぱり春樹には理解できなかった。ただ、幸次と縁と切りたい気持ちだけが頭を占めつくしくる。

 幸次さえ居なければ、こんなところに呼び出されずに済んだのに。一時期、将のように転校しようとも思った。将が転校して夏休みに入って会った時『松山が死んだら大変だぞ』と言われたことがあった。あまり、その時は深刻には考えていなかった。けど、この10月に入ってから松山への幸次の言動はあからさまにおかしかった。

 でも、将が転校しても幸次から連絡をしてきていることを聞くと怖さを感じてしまう。チラッと前の見ると田代先生がにこやかに笑っている顔が目に入った。

「”笑う”って何?!」

「東山、松山に申し訳ないという気持ちはあるか?」

「突然、また何に言ってんの? そんなの考えたないし。そんなものないに決まってんじゃん。」

「お前な、人をいじめて、、罵倒していて!!」

 何か溜め込んだことを吐き出すように、脊山先生が立ち上がって怒鳴ってきた。春樹は顔を横に逸らした。無責任に悪いと責められてるようで、不愉快な気持ちが込み上がってくる。

「脊山先生、落ち着てください。座ってください」

「あの田代先生は、こんな指導でいいと思ってるんですか?」

息をからして、脊山先生は席に座った。

「いいとは思ってませんけど、ただ生徒を責め立てるのも違う気するので。」

「責めているつもりはありません。」

「まあ、まあ」

 2人のやりとりをだた春樹は見ていた。

「脊山先生、責任とは分散してしまうので、しょうがいない部分もありますから」

「どういう意味ですか?」

「まあ、汚く言えば、”なすりつけ”ですかな」

「えっ?」

「まあ、こんな事を生徒の前では話してはダメですね。」

 そう言いながら、田代先生は春樹にウインクしてきた。おじさんのウインクはどこか気持ち悪いけど、心のどこかで春樹は救われた気がした。

「まあ、そうなんですけど。」


「失礼します。」

入ってきたのは小宮先生だ。慌てている様子でいる。

「東山、教室に戻りなさい」

 聞いてはいけないことでもあるのだろう。まあ、どうでもいいか。こういう時、聞きたがる生徒もいるが、春樹はそいうタイプにはなれなかった。知らなくていいことは知りたくない。

「わかりました。失礼します」

「気をつけろよ」

田代先生が言った。

「何を気を付んだよ。」

そう言って席を立とうとした。

「岸山のこと、気にならないのか?」

脊山先生が言った。

「なるわけないじゃん。死のうが生きようが。じゃあ、教室に戻らせていただきます」

春樹は、指導室の入口に立っていた小宮先生の横を通って出て行った。顔はよく見てないが、何か言いたそうだった。


教室を入ると、玉城が入り口付近に立っていた。

「まだ文句でもあんの?」

「ないけどさぁ。でも、何かあるじゃん。」

「何が?」

「岸山のこと」

男の声がした。白田しろたが机に向かって、春樹に方を見ることもなく言ったのだろう。

「岸山のあの短気な性格に俺は振り回されてきたんだよ。もう、こっちも迷惑なんだよ」

白田はこっちを見た。

「なんだよ。それ」

「お前も、松山のいじめが俺が指示してたと思ってたの?」

「違うの?」

「やぱっりね。面倒くせえ」

春樹はもうどうでもよくなって、自分の席に向かった。やっぱり、田代先生がいうように人相とかよくないのかもしれない。

「で、どうすんの?」

目の前に座る影城かげしろたくみが小さな声で言った。

「だから、どうも、しないって。」

小声で言い返す。

「そう。」

影城は不気味にうなずいて前を向いた。

 もう3時間目の授業に入っていて、教室に脊山先生が入ってきた。国語の授業が通常通り行われた。

 

 幸次とも松山とも会うことはなくなった。2人とも学校を辞めてしまった。動画サイトに『殴ってみました』というタイトルで幸次が松下を殴っていたアップされた。ただ、動画をアップしたのが松山だった。いじめの被害を訴えるつもりで、将を脅して撮影させたようだ。


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火に油を注ぐ行為 一色 サラ @Saku89make

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