動画発覚
3階に上がって、幸次のいる2-4組の教室の前は通った時、張り紙が張られていた。『2階のB室に来てください』と文字だけチラッと映った。春樹は2-2組の教室に入った。窓ガラスは割れていなかった。
「東山、ちょっと指導室に来て」と小宮先生が教室に入って来た。昨日、窓ガラスが割れたのは幸次の4組で教室だったのだろう。ただ昨日、動画と見ていた教室はこの2組だった。
1階にある指導室と書かれた部屋を開けた。そこには田代先生の姿があった。だけど、こんな時にいつも居るはずの指導担当の脊山先生の姿はなかった。
「そっちに座って」
入って、呆然と立ち尽くしていた春樹に小宮先生が言った。小宮先生は、田代先生の隣に腰を掛けていた。
「俺、何もしてないけど」
春樹は椅子に腰かけながら言った。
「昨日、家に帰って岸山と取り合ったでしょう? どんな内容だった? 」
座ったばかりの春樹の目に小宮先生の疑いきった目が映った。
「はあ、何も連絡とり合ってないし 」
「そんなはずはないでしょう。」
「面倒くせいな。」
本当に、何の連絡もなかった。たぶん、小宮という教師は何を言っても信じる気がなさそうだった。そうなると、春樹はだんまりが何も話す気力を失って黙ってしまう。
「今日、岸山も松山も学校に来てないんだよ」
田代先生が言う。
「幸次が…。来てないって言われても。本当に幸次と連絡とってないから、俺に聞かれて困るんだけど…」
「そう、申し訳ない。東山はいつも岸山と一緒にいたからな。先生たちは一番仲がいいと思っていた。だけど、違ったみたいだな。」
田代先生が、春樹に優しい目を向けている気がした。
「ただ、東山にしか、岸山のことを聞けません。」
小さい声で小宮先生は言って、どこか苛立っている様子だった。
「でも、俺は何も知らないだけど」
「そうみたいね」
「で、教室に戻ってもいいですか?」
「えっ!確認だけど、松山の居場所も知らないわよね?」
小宮先生は春樹をどうにか引き留めようとする。
「知らないって言ってんじゃん。疑われても困るんだけど。面倒くせいな。」
「ああ、もう教室に戻りっていいぞ」
田代先生が言ってくれた。
「じゃあ」
春樹は立ち上がって教室に戻れることになって、ほっとした。小宮先生もこれ以上は引き留めるすべがなかったようで黙っていた。やっと、春樹の指導室から出て行くことができた。
3階にある教室のドアを開けると、多く視線が春樹を向けられているのを感じた。
「何か、文句でもあるのか?」
「えっ、何もないけど…」
教室の前の席に座っている学級委員の玉城明菜が言った。
「あっそう」
そうまま、春樹が歩き出そうとすると、
「でも、ちょっと、この動画を見て」とスマホを春樹の方向に向けた。そこには、幸次が松山を殴っている動画だった。何度も馬乗りになって殴っている。ひどいものだった。
「岸山と友達でしょう!! 何とかしてよ!」
玉城が叫ぶように言う。
「なんで、俺がしないといけないだよ。」
「だって、友達だから」
「はぁー?!」
声が裏返ってしまった。春樹は、今まで幸次を一度も友達とは思っていなかった。
「違うの?」
玉城に言われて、春樹は困った。
「友達とは思ったことないけど…」
「えっ、そうなんだ」
小声で誰かが言った。あたりを見渡すが誰の声か分からなかった。
「じゃあ、何でいつも一緒に居たの?」
玉城が言う。
「何となく」
春樹はそう言いながら”逆らえなかった”という言葉が頭をよぎった。でも、恥ずかしくて口に出したくない。自分の席に向かって歩き出す。教室にいる全員が静まり返ってように、黙っている。春樹はどこか困惑して、自分の席に座った。黒板を視線を当てると『自習』と文字が書かれていた。そういえば、授業を教える先生の姿はいなかった。
しばらくしても、教室はザワザワしているような落ち着きのない様子が続いていた。原因は幸次が松山を殴っている動画だろう。キーコーンカンコンと授業を終えるチャイムが鳴った。
「東山、ちょっと」
小宮先生が、また教室にやって来た。
「知らないから、幸次のことは」
「一応、確認したいことあるから、来なさい」
「じゃあ、ここで言えばいいじゃん。」
「それはできないから」
春樹は小宮先生を睨む。ただ。教室にいる人間の視線も気になる。春樹は重い腰を上げて、小宮先生の後について、1階にある指導室に降りて行く。
指導室に入ると、さっきはいなかった脊山先生の姿があった。ただ、田代先生はいなかった。
「座って」
何となく救われない気持ちで、椅子に座った。
「何ですか?」
「松山が病院に運ばれた」
脊山先生が言う。
「はい!?そんなこと俺に言ってどうすんの?」
「そうだな。東山、今のお前には関係ない話かもしれない。だた、もう少し、岸山のことについて聞きたい」
「別に何もないですよ。幸次とはどこか表面上の付き合いだった気がするし。本当のところ、何も知らない気がするけど」
「そういうものか…」
脊山先生がどこか府に落ちない様子だ。
「後、
「ああ、
「そう」
脊山先生が困惑している様子な気がする。
「もうしかして、将って幸次に呼び出されたの?」
「お前、知ってたのか?」
「えっ、本当に将が呼び出されたの…」
「ああ。なんで呼び出されたと思ったんだ?」
そう言われても、何でそう思ったんだろう。そういえば、玉城にみせられた動画を思い出した。教室で見せられた動画は遠目で撮られていて、ブレていた気がする。スマホをどこかに置いて、撮ったものではなかったかんじだ。
「えー、さっき教室で幸次が松山を殴っている動画を見せられたから。自撮りぽっくなかったから、誰かが撮ったのかなと思って。幸次なら連絡するなら、俺以外なら将しかいないと思ったから。」
「動画!! 誰に見せられた!?」
「玉城」
「そう。小宮先生」
脊山先生に促されるように、小宮先生は部屋を出て行った。玉城に動画を見せるように言いに行ったのだろう。
「新川は、何で2年に上がるときに転校したと思う?」
「なんで、俺に聞くの?」
「お前しか、知らないこともあるだろう」
「知らないし。たぶん、幸次から逃げるためじゃないの。」
「なんで?」
脊山先生は俯いて、視線がそれた。
「意味わかんないだけど、そんなの生徒をちゃんと見ていれば分かることじゃないの。面倒くせえな。」
脊山は黙って、春樹を見る。
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