火に油を注ぐ行為

一色 サラ

関係性

 高校2年になって10月に入った頃、東山とうやま春樹はるきは、岸山きしやま幸次こうじと、放課後の教室で動画を見ていた。机を挟んで座っている幸次は動画を見てケラケラと笑っている。

 そこに映っているのは、同級生の松山まつやま健治けんじだ。松山が駅から出て来て学校に向かう所を幸次が撮影している。春樹はそれを不快な気持ちで見つめていた。ただ、”こんなことやめよう”とは口が裂けてもいえなかった。幸次と関係が解消することには何の抵抗もなかった。けど、幸次はどこかサイコパスのような要素があり、裏切ったら許さない高圧的なものがある。何をされるのか怖くて、春樹は何もできないでいた。

 高校1年の時から、松山にいじめのような行為が始まった。それが2年にもなって、続いている。春樹は別のクラスだが、幸次と松山は同じクラスだった。

「その 動画どうするの?」

「ああ、これね。ネットにアップしようと思って」

「いや、それはやめたほうが」

「なんで?」

「ごめん」

 やばい、いらないことを言ってしまった。幸次のギロっと睨んでくる。春樹はその目から視線を逸らした。

  動画をアップされるのは嫌だった。たぶん、春樹は共犯者となってしまう。

もし、松山が自殺でもしたらどうすればいいんだ。

 いじめが問題視されれば、大学受験とかに影響してしまうかもしれない。それだけは避けたい。

 2年になって、少しでも幸次と関わる時間を減らしいと思い始めた。6月に入って親に塾に行く曜日を増やしいと志願した。どうにかして、会う時間を減らしたかった。もともと、バスケ部に所属していたが、1年の夏休みに入る前にやめてしまった。よく考えれば、何でやめたんだろう。『そんなことしても、将来なんのためにもならないぞ』幸次の声が頭の中に聞こえてきた。なんであの時、素直に応じてしまったんだろう。本当に最悪だ。

 幸次と関わったことで、最悪な高校生活を送っている気がする。

 

「あなた達、いつまで学校にいる。もう今日の授業はすべて終わっているわよ。」

「小宮先生、今日も綺麗ですね」

 幸次は茶化すように言っている。

「そのスマホ、見せなさい。」

「いやですよ」

 動画を見られてしまった。

「別室で話してもいいのよ」

「えっ!嫌ですよ」

 幸次は小宮先生をあざ笑うように、拒否している。

「じゃあ、動画を今すぐ削除しない」

「わかりましたよ」

 素直に幸次は削除ボタンを押した。

「東山もこんな動画を岸山に撮らせないでよ‼ 」

「えっ!!」

「言い訳はいいわ。聞きたくない。ちゃんと、まっすぐ帰るのよ。」

 小宮先生は、そう言いながら教室を出て行った。ただ、勝手に幸次が撮ってきたのに、春樹の指示していると思っている口ぶりだった。不愉快な気持ちが頭に膨らんでいく。

「春樹、そろそろ、帰ろうよ」

「うん。今日は、1人で帰えるわ。寄るところあるし」

「ええ、どうして?」

「だから、寄るところあるし」

「ふーん、キモイよ。じゃあ、お先に」

 幸次はそう言いながら、席から立ち上がろうともせず帰ろうとしなかった。この挑発に乗ってはいけない。幸次は、春樹を睨んでいる。春樹は幸次が教室を出て行こうとしないので、先に立ち上がって、出て行くことにした。

「無視すんなよ」

 幸次の声が教室に響きわたる。それを無視するように春樹は教室をでた。とりあえず、職員室の前を通ろうと思って、2階に降りる階段を下っていた。

「大丈夫か?」

春樹は体がビクッとした。後ろを振り向くと居たのは、体がガッツリして。少し強面の現代史を教えている田代公彦先生が立っていた。

「何がですか?」

「別室で話を聞こうか?」

 春樹は、黙って首を縦に動かした。どこか助かったと思った。このまま、学校を出て行けば幸次に待ち伏せされて殴られていたかもしれない。


1階にある指導室と書かれた部屋に入った。

「まあ、そっちに座れ」

 何個か長机が置かれていて、3列目に座った。椅子をこちらに向けて田代先生は春樹と机を挟んだ状態で座った。

「岸山に何か言われたのか?」

「もしかして、教室で話していたこと聞いてたんですか?」

「ああ、それもある。ただ、松山のいじめについてだ」

「えっ、いじめのこと…」

春樹は困惑した。

「まあ、いい。一応は聞くが、東山、いじめをやめれなかった理由って何だと思ってんだ?」

やめれなかった理由、そんなのある気がしない。

「えっーと、ああ、でも幸次が、、、松山が何か言って俺たちが指導担当の脊山せやま先生に呼び出された後に、幸次が松山の動画を盗撮し始めたかも…。でも、これは違うか…」

「いや、それが聞けただけで十分だ。もう、暗くなってきたし、帰って方がいいな。」

春樹は、すぐ返事ができなかった。このまま帰るのが怖かった。

「どうした?」

「幸次がどこかで待ち伏せしてるかもと思って…」 

「待ち伏せね。分かった。家まで車で送ってやるよ。」

「いいんですか?」

「今回だけは特別だぞ」

少し安心した。

一旦、職員室に行くと田代先生に言われて、付いていった。職員室に着くと、慌ただしい状態だった。

田代先生といた春樹とを見た小宮先生が、すごい剣幕でやって来た。

「東山、あなたも一緒にやったの?」

「小宮先生、いままで、東山は僕と一緒にいましたよ」

「えっ!そうなんですか。」

小宮先生は、困惑したように俯いた。田代先生もそうだろうが、春樹も何のことか全く分からない状況だった。

「とりあえず、岸山は警察に引き取ってもらうことにします」

「どういうことですか」

「岸山が教室の窓に教科書が投げつけてガラスを割れて、下を通ていた学生がケガをしてしまったので」

「ああ、そうなんですね。で、岸山がどこにいるんですか?」

「校長室に居ます。」

田代先生が春樹を見た。

「もう、1人で帰れそうなだな。」

「ああ、はい。じゃあ、帰っていいですか?」

「いいですよね、小宮先生?」

「あっ、はい。関係ないようなので。」

「じゃあ、失礼します。」

「お疲れさま。気をつけて帰れよ。」

田代先生に言われて、そのまま職員室を出た。校長室の前をゆっくりと聞き耳を立てて通ったが、何も聞こえてこなかった。









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