5.不純よりもむしろ純粋の方が厄介

 平日の夜、夏樹は自分の夫に唯との事を相談してみた。葵は宿題をやるのに机に向かっていた。


 夏樹の夫は腹を抱えて笑った。


 「新庄さんの奥さんに限ってそんな、気のせいだと思うよ。」


 「笑い事じゃないわよ。こっちは悩んでいるのよ」


 夫は真面目な顔をして夏樹にこう言った。


 「もしかすると、夏樹にそういう願望があるとかね。あとは、夏樹が隙だらけとか。」


 両方当てはまるかもしれない。

 私は唯が好きだと思っていたがいつしか友情が愛情へと変わり、やがて唯がそこ隙間に入ってきたのかもしれない。


 「女同士ならノーカウントかな。夏樹が男に浮気すると絵的に嫌だけどね」


 夫はそれで話を終わりにした。

 

 

 そして、金曜日の夜になった。


 夏樹はショートケーキを二人分買い、唯はハーブティーを持ってきた。


 「あのね、唯。大切な話があるの」


 「何?」


 「子供同士の事もあるしママ友という関係は残しておくけれども...。こうやって週末に会ったり、一緒にどこかへ行ったりするのはやめよう」


 夏樹は申し訳なさそうに言った。


 「いいよ」


 唯の答えはあっけなかった。

 夏樹が悩んでいたことは何だったのだろう。


 しばらく、お互いに無言の状態が続いた。

 沈黙を破ったのは唯だった。


 「このケーキタイムも無くなっちゃうんだね。何だか寂しいね」


 唯は力なくそう言った。


 (これだ。寂しい...、この言葉が私を狂わせるんだ)


 「唯には葵ちゃんやご主人がいるじゃない。どうして寂しいの?」


 「あなたのことが好きだからよ。でも、この感情は不純じゃない。純粋なものなのよ」


 夏樹は戸惑った。

 自分は純粋に唯の事が好きなんだろうか。不純な気持ちで唯を見ていたのではないか。

 

 「あのね、私は唯を誤解していたかもしれない」


 「そうなの?」


 「唯に不純な気持ちがあって私に近づいてきたのかなと」


 唯は笑った。


 「ははは、そんなわけないでしょう。どちらかというと、純粋に友達として好きだよ」


 (ただ、不純よりも純粋なほうが時に厄介かもね)


 唯はクスリと笑った。


 夏樹の頭の中では処理能力が追いつかなかった。


 「そうすると、このままで良いって事だね」


 夏樹はニコッと笑った。

 唯は笑顔で返した。

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二軒隣の奥様 milly@酒 @millymilly

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