4.寂しい...

 食事が終わり部屋に帰って来ると、布団が二人分敷かれていた。

 二人はテレビを観てビールを飲んで...、普通の友達みたいだ。


 (私が過剰反応しているだけだね、きっと)


 明日は起きるのが早い。

 夜は早めに寝ることにした。電気は常夜灯だけにした。


 「ねえ、夏樹」


 「どうしたの?」


 「一人だと何だか寂しいから、夏樹の方へ行きたいの」


 夏樹は一瞬ためらった。

 私のパーソナルスペースに唯が入る事は、避けた方がいいかもしれない。でも...。唯は何かするとも限らない。


 「いいよ」


 「ありがとう」

 

 唯は夏樹の布団に入ると、夏樹にしがみついた。両手を背中に回す。


 夏樹の体が震えた。


 「嫌?」


 「い、嫌じゃないけれども、そういうのはご主人の方がいいんじゃないかな?」

 

 夏樹の声が上擦る。


 「うちの夫はお願いしても触れてくれないから、人肌恋しくて。」


 「わかったよ。このまま寝よう」


 唯の手や胸に体が触れている。

 夏樹は唯の背中に手を回そうとした。


 (いや、ダメだ。これ以上はよくない)


 意思に反して、夏樹の呼吸は荒くなる。

 まるで興奮しているかのようだった。


 唯が規則的に呼吸をしている。寝たのかな、と夏樹は思った。


 (これ以上触れているのは無理)


 このままだと、本能に逆らえなくなる。

 筋は通したい。


 夏樹はゆっくりと唯から遠ざかって、唯に背中を向けた。

 

 唯は閉じていた目を開けた。実は起きていた。悲しそうな顔で。



 次の日、二人とも祖父母の家に行かないといけなかった。

 朝食を取り、夏樹は急いで車を走らせた。唯は助手席に座った。


 「楽しかったね、夏樹」


 「そうだね。温泉宿なんて久し振りだよ」


 「ご主人や葵ちゃんと行かないの?」


 「葵は、温泉よりプールを選ぶよ」


 唯はお腹を抱えて笑った。 

 夏樹は車を義実家の周辺で停めた。


 「夏樹、ありがとう。もう旅行が終わりだと思うと、私は寂しい」


 「また来週の金曜日、家においでよ。甘いもの準備しておくから」


 唯は助手席のドアを開けて車を降りると、夏樹の車を寂しそうに見送った。

 

 (私だって寂しいんだよ)


 夏樹は唯の寂しそうな顔が忘れられなかった。

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