1.墓場まで持って行く想い

 夏樹なつきも女の子を出産し、母子ともに健康だった。名前はあおいにした。夏樹は里帰りしていたので、出産後1カ月してから自宅マンションに帰ってきた。

 

 「どうですか?調子は」


 「うん、もう元気。ところで、敬語はもうやめようよ」


 「そうだね、夏樹。これでもうママ友だね」


 自分はもう性交もOKになったけれども、唯はとっくにOKでしょう?と夏樹は喉から出掛かって抑えた。

 ご主人と夜な夜な愛し合うのかな...。なんて意味のない想いが頭の中を駆け巡る。


 夏樹の子供が生後2カ月、唯の子供が生後8カ月になった。今度は唯の部屋にお邪魔する事になった。

 唯は息子であるレンに離乳食を食べさせるようになった。もちろん、それだけでは足りないのでお乳もあげていた。

 

 夏樹もブラウスのボタンを外して授乳させていたが、唯には全く振り向いてもらえない。当たり前の事である。


 「つかまり立ち上手だね、蓮君」


 「そう?初めての子供だからよくわからないの。」


 「もう一人つくるの?」


 唯はうーんと考えた。


 「欲しいけれども、我が家は共働きだから、二人目は厳しいかな。夏樹は?」


 「私は不妊治療しているからね...。もう二人目はいらないかな」


 「変な事を聞いてごめんなさい」


 ハイハイしている蓮は抱っこされている葵と目が合い、二人ともじっと見つめていた。蓮はそろそろ人見知りをする頃だ。


ーーー私は唯が子供を産んだから私も産んだ


 これを知られたら怖い人認定だろう。この想いは墓場で持って行くつもりだ。


 「ところで夏樹、今日は親戚から洋菓子のフィナンシェが贈られてきたの。食べていかない?紅茶もあるし」


 「ありがとうゆいご厚意に甘えて、いただくね」


 ティーポッドからカップに紅茶が注がれていく。

 

 「ねえ、夏樹」


 「ん?」

 

 「葵ちゃんが大きくなったら、公園デビューしようね」


 「そうだね、楽しみにしているね」



 唯のご主人が羨ましい。こんなに綺麗な唯を独り占め出来て。

 そして、夏樹は唯のご主人に嫉妬している。ただ、他人のご主人に嫉妬したところで、嫉妬で狂ってしまうだろう。唯はご主人の物だからだ。


 夏樹が唯の良きママ友に私がなれば、渇いた心も少しは満たされるだろう。

 

 

 



 


 




 


 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る