第90話
「もう一度訊く。どうか、投降してくれ」
イグラシオはもう一度投降を呼びかけた。
リーシャを抑えつけるには、イグラシオとて本気を出さないといけない。その拍子で怪我をさせてしまう可能性すらあったのだ。
「私は……負けられないんです。あなたが負けられないのと同じように」
「くっ。どうなっても知らぬぞ!」
イグラシオが駆け出すと同時に、リーシャは何とか意識を保ちながらももう一度〝聖弾〟を放った。
リーシャの掌が光った瞬間、イグラシオは左手で大盾を構える。
その瞬間、イグラシオの左手はこれまでの戦では経験したことのなかった衝撃を感じた。
瞬間的にその衝撃に耐えられないと悟ったイグラシオは、盾で真正面から捉えるのではなく、やや盾を斜めに逸らして衝撃の負荷を外へ逃がした。
「ぬぁぁぁぁ!」
雄たけびと共に〝聖弾〟を弾くと同時にイグラシオの手首の関節は外れ、大盾も吹っ飛び馬上からもイグラシオ自身も飛ばされた。
しかし、衝撃を予期していたため、彼の対応も迅速だった。彼は空中の上で体勢を整え、綺麗に着地した。
イグラシオは冷ややかに微笑み、対照的にリーシャは絶望的な表情を浮かべる。彼は自らの剣を引き抜き峰でリーシャを狙った。
リーシャは意識がほとんど遠のいた状態で、〝マルファの聖剣〟を使ってなんとか攻撃を防ぎきった。ぼんやりとした光を持つ剣を見て、イグラシオは目を見開く。
「魔法の剣か……おもしろい!」
〝マルファの聖剣〟を相手の急所めがけて吸い込まれるような斬撃を繰り出す。そのあまりの正確さにイグラシオも息を飲むが、辛うじてのところで自らの剣でそれを全て防ぎ切る。
何度か剣を打ち合うが、いざ剣と剣の打ち合いになれば、技術や力が左右する。リーシャは剣を打ち払われないようにすることで必死で、防戦一方だった。
「リーシャ!」
ヴェーダは息を詰まらせそうになる。相手の剣技が聖剣を持ったリーシャをはるかに上回る事は既に見抜けた。
しかし、リーシャと敵将の距離が近すぎて弓を射ることができず、精霊魔法での援護もリーシャを巻き込む危険性があった。
ヴェーダはレイピアを抜き、〝シルフ〟の力で上空から一直線で加勢に向かった。
「王女よ、確かにいい剣技だ……だが!」
バキィン、という音と共にリーシャの手から剣が吹き飛んだ。
「力不足だ。魔法の剣を以てしても俺には適わぬ」
「あぅ……」
リーシャは慌てて五芒星を描こうとするが、間に合わなかった。イグラシオの剣の柄で鳩尾を突かれた衝撃で気を失い、ゆっくりと前のめりに倒れ込んだ。イグラシオは咄嗟に彼女の腕を掴んで、倒れないようにゆっくりと座らせる。
「この……リーシャから離れなさい!」
上空からヴェーダがレイピアで斬りかかる。
対して、イグラシオはヴェーダの突きをかわし、体勢が崩れたヴェーダの腹に肘を食らわせた。
「ぐっ……ッ」
苦しげな息を漏らしながら、ヴェーダはそのまま地上に崩れ落ちた。〝シルフ〟の力で加速した分、肘の衝撃が反動で加わったのだ。彼女の華奢な体では耐えられるはずがなかった。
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