第二部
第76話
ハイランド王国とケシャーナ朝の竜砂同盟が成立した翌日、ジュノーンとリーシャはバルクーク王からの親書を携え、再びハイランドへと飛び立った。
ハイランドに戻ってきたジュノーンとリーシャからの報告、そしてバルクークからの親書を見てハイランド王宮に歓声が沸いた。同時に、いよいよローランドと雌雄を決する戦争が始まるのだ、と緊張も齎した。
今、街は出陣へと向けて動き出している。
フリードリヒ王が御触れを出したことにより、近いうち大きな戦争が行われることは国民も知っており、志願兵も多く集まった。
これがどれだけ重要な戦か、皆が知っていた。
ある者は名誉の為、ある者は家族や友人、ある者は愛する者の為、多くの志願兵が集まった。王都から離れた小さな村々からも義勇兵の志願が後を絶たなかった。
民は皆、次の戦に勝たねばハイランドの未来がないことも知っていたのだ。
今では編成された部隊が王宮の外に集まり、街を上げて武器や食糧が集められた。
「いよいよ、だな……」
フリードリヒ王はそんなハイランドの緊張した雰囲気を感じつつ、呟いた。
最終的な編成の報告として、作戦会議室には〝疾風迅雷〟のバーラッド、〝鉄壁〟のナーガ、そして〝竜騎将〟ジュノーンの将軍三人と、リーシャ、ヴェーダ、そして宰相イエガーと王妃メアリーもいる。まさしく国の重鎮のみが集まっていた。
バルクーク王の親書によれば、明日にはケシャーナ朝がローランド南部地方への侵攻が開始される。それに伴い、数日後にはハイランド陣営も交戦を開始する予定だ。出陣の予定は明日の明朝。いよいよ、最後の戦いが始まってしまうのである。
過去、ローランドには幾度となく出陣してきた。だが、明日で良くも悪くも最後となる。バーラッド・ラーガの両将軍により編成された軍はハイランドの総力と言っても過言ではない。
この戦に破れれば、ハイランドは滅びる。間違いなく総力戦だった。ただ、今回は間違いなく勝つ見込みが高い戦だった。
ケシャーナ朝の侵攻が開始すれば、ローランド帝国は兵を南に送らざるを得ない。そうすれば、ハイランドの侵攻もまた容易となるだろう。ローランド陣営はハイランドとケシャーナが密約を交わしている事など知らぬのだから、当然である。
これらが齎されたのは、これまでに存在しなかった〝竜騎将〟ジュノーンの存在の他ならない。まだ〝竜騎将〟の戦での強さは未知数であるが、あの幻の竜騎士が弱いわけがない。しかも、従えているのは狂暴な火竜だ。どの様な戦力かは見当もつかなかった。火竜の強さを知っているのはジュノーンだけなのである。
だが、負ければ国としての未来が閉ざされる事も確実だ。この事実の前には、さしもの〝賢王〟フリードリヒとて緊張を隠せていなかった。
「〝竜騎将〟ジュノーンよ……私はお前に感謝せねばなるまい。これほどの状況で戦に挑めるのも、お前のお陰だ。一度はお前により閉ざされた我が国の未来が、お前により切り開かれるとは、なんとも皮肉なものだな」
〝賢王〟が溜め息混じりにそう言うと、ジュノーンは片膝を突いて一礼した。
「それは、ローランドを陥落させてからにしてください。私は今やハイランドの人間です。それを……証明してみせましょう。竜の業火と我が剣で」
「うむ……」
国王は頷き、そして次にバーラッドとラーガを見た。二人の将軍も〝竜騎将〟と同じく膝を突いた。
「バーラッド、ラーガよ……二人には長年苦労をかけたな。だが、それももうすぐ終わる。さすれば少しは楽をさせてやれるだろう」
王の言葉に、二人はもう一度深く頭を下げた。
これから起こる戦争が、ハイランドにとっての平和に繋がると二人はもはや信じて疑わなかった。
バーラッドは最初、ジュノーンに対しても憎しみに近い感情を持っていた。しかし、ジュノーンは火竜を引き連れただけでなく、ケシャーナ朝との同盟も結んできた。今では、彼が味方である事を疑っていなかった。
紛れもなく、彼はハイランドに対して大きな働きを成したのである。ハイランドに所属する兵士・騎士全てを以てしても到底できぬ偉業をたった数週間で成してしまうのだ。
よもや、ジュノーンが誰よりも優れており、更には英雄の資質がある事を認めざるを得なかった。
彼が英雄かどうかは、これからの戦が教えてくれるだろう。
「お任せください。このバーラッド、命に代えましても……必ずやハイランドに栄光ある勝利へと導いて参りましょう!」
バーラッドは自らの右拳で強く左胸を叩くことにより、その意思の強さを示した。
各々の編成の報告、そして役割と作戦の確認を行い、フリードリヒ王は最終会議を締めようとした。
しかし、そこで一人の少女が手を上げた。
ハイランド王国王女殿下・リーシャ=ヴェーゼに他ならない。
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