第69話 帝王
待合室に、国王自らが来る──
予想外にも程があった。まさか国王がこんな待合室にまで出てくるとは思っていなかったのである。
まだジュノーン達は武器も預けていない。見ず知らずの武器を所持している外国人の前に王自ら出てくるなど、まさしく危険極まりない行為である。
「はっはっは、驚かせて悪かったな。そう、俺がケシャーナ朝の王だ。まずはその堅苦しい真似はやめてくれないか? 俺は諸国の騎士のそういった慣習が苦手でな。いいから椅子に腰かけてくれ。うちの侍女が煎れた紅茶は旨いぞ」
言うと、バルクーク王は自らゆっくりとした足取りで腰掛けた。その足取り一歩一歩には一部の隙もないほどで、この王が優れた武人である事が見て取れる。
(なるほど……こうしてのこのこ出てくるには、それだけの自信があるって事か)
ジュノーンはもう一度心の中で舌打ちをする。
バルクーク王は危険を跳ね返すほどの武力を個人が持っているのだ。だからこそ、こうしていきなり客人の前に現れる事もできるのだろう。そして、彼が臆することなくこの場に現れたという事は、ジュノーンを前にしても負ける気がしなかったからだ。舐められたものである。
バルクーク王がテーブルの椅子に腰掛けたので、ジュノーンとリーシャは目を合わせ、迷いながらも椅子に腰掛ける。
(なんだこれは……待合室で護衛もなく国王がいる、だと? 全く読めないぞ。これがケシャーナ朝なのか?)
文化の違いに迷いながらも、ジュノーンはスルタンの動きを注視する。
「それで? 遠い国のハイランドから使者というのは初めてでな。一体こんな砂しかない国に何の用だ?」
そこで、はたとして要件を思い出す。彼らはただ砂漠の国の王に謁見しにきたわけではないのだ。
「こちらを……渡しに参りました」
青髪の王女は筒からフリードリヒ王の親書を取り出し、バルクーク王に渡した。
「ほう、確かに本に記されていた通りのハイランドの王印だな」
実際に見るのは初めてだが、とバルクーク王は笑った。
それもそのはずである。ハイランド王国はローランド帝国と交戦して以降、他国との外交を一切行っていない。何度か密使を送ろうとしたが、ローランド帝国を抜ける事が叶わなかったのだ。
王は親書を開こうとしたが、その前にはたと手を止めた。
「そうだ、まだ俺はお前達の名を聞いていないな。教えてくれ。それと、どうやってケシャーナまで来たのかもな」
バルクークはジュノーン達を使者と信じ切っているようだった。
彼にはそれが不思議でならなかった。どうしてこうも会って間もない人間を信用する気になるのか、理解できなかったのである。刺客である可能性等は考えないのだろうか。
「私は先日ハイランドの将軍に就任したジュノーン=バーンシュタイン、そしてこちらは……」
リーシャの方をちらりと見ると、彼女はこくりと頷き、青年の言葉に続けた。
「ハイランド王国の王女、リーシャ=ヴェーゼでございます」
そして、恭しく頭を下げる。
「なんと! ハイランド王国の王女と将軍が使者ときたか。これは重要な親書と考えて間違いなさそうだな!」
ガハハ、とバルクークは豪快に笑った。
ジュノーンとリーシャは終始困惑していた。全くバルクークの意図が読めなかったからだ。
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