第67話 訪朝

 ローランドの上空に入ったあたりから、会話は少なくなった。リーシャが緊張した面持ちをして、黙り込んでしまったのだ。

 数日後にここが戦火に包まれる事を考えてしまったのだろう。だが、それもこの同盟が上手く結ばれれば、終わる。

 その為にも、彼らの責任は重大だった。

 それから少しの休憩を挟みつつ飛び続け、ローランド帝国を抜けてケシャーナ朝の領域に入っていた。


「見ろ、リーシャ。砂漠が見えてきた。もうここはケシャーナ朝の領土内だ」

「え、もうですか⁉ 凄いです……いつローランドを超えたのか、わかりませんでした」


 リーシャはその呆気なさに、唖然とする。

 空には関所などもちろんない。二つの国境を上空から簡単に超えれてしまったのでは、もはや国境という概念すら意味を成さないのだ。

 そして、こうして空を自由に行き来できる様になった事で、そもそもの国境などどこにもないではないか、とジュノーンは考えるのだった。

 陸も本来、空と同じでどこからどこまでが誰のものという取り決めもなかった。その取り決めを勝手に作り、揉め事や争いへと発展させているのは人間だ。そのせいで数多の苦しみと悲しみを生んでいるのだから、愚かとしか言いようがなかった。

 それから数日後、ケシャーナ朝の首都・アットンへとジュノーン達は到着した。

 無論、いきなり竜で乗り込んでは攻撃をされてしまうので、アットンより少し離れた場所で火竜から降り、訪朝する。

 砂漠と言えども明け方はハイランドより寒くて二人は驚いたが、今は環境の違いに感動している場合ではない。

 少しばかり砂漠を歩き、首都アットンを抜けて砂漠の宮殿〝ゲテスター〟に向かった。

 朝一のアットンは賑やかで、商人達が朝から開店準備をしていた。掘り出し物から、果物や食べ物まで沢山の店が並ぶ。リーシャは初めて見る異国に高揚していたが、今はとりあえずケシャーナ朝に親書を渡す事が先決なので、何とか好奇心旺盛な姫君を思いとどまらせる。

〝ゲテスター〟に着くと、門兵から早速武器をつきつけられた。

 ジュノーンやリーシャは砂漠の民と髪色や肌の色、風貌が違うので警戒されてしまったのだ。


「何者だ。ここは国王の住まう〝ゲテスター〟。余所者の来る場所ではない。観光客は別の場所に行かれよ」

「俺達はハイランド王国の使者だ。ハイランド国王より親書を持ってきた」


 ジュノーンは鞄から親書を出し、それを門兵に見せる。

 変に話すよりも、親書を見せてその紋章を確認してもらった方が早いという事をジュノーンは知っていたのだ。


「た、確かにハイランドの王印だが……どうする?」

「確認してこい。我らでは身に余る」


 門兵の一人は頷き、顔色を変えて中へと駆けて行った。

 ハイランドからの使者が来る事など、ケシャーナ朝始まって以来だ。警戒もされて当然である。

 まずは上の者に報告し、その判断を仰ぐだろう。その上の者がどう判断するかによって今後の流れは変わってくる。最悪、門前払いをされる可能性すらあるのだ。

 暫く待たされる覚悟はしていたが、案外早く門兵が戻ってきて一礼した。


「御客人、どうぞこちらへ。砂漠の国はこれより暑さが増しますので、異国の方には辛いでしょう。中でお待ち下さい」


 ジュノーン達は一礼して中に入る。

 どうやら、第一関門は突破できたようだ。

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