第61話 円卓

 会議室にはハイランドの主たる将軍達と、長い金髪に手櫛を通して退屈そうにしているエルフ娘の姿があった。

 将軍達はジュノーンの姿を見るや、ふん、と鼻を鳴らす。

 彼らは、決してジュノーンに対して良い印象は持っていない。いきなり余所者の若造、しかもつい先日まで敵国の武将であった者に自分達と肩を並べられたのだから、当然であろう。先程恥をかかされたバーラッドに至っては、ジュノーンの方を見るなり舌打ちをしているほどだ。

 一方ヴェーダはジュノーンの姿を見て、その美しい顔に笑みを作って小さく手を振る。この美しいエルフ娘も、今やリーシャ専属の近衛騎士という身分を授けられていた。これに関しては、城の中の行き来や今後の移動を鑑みて、近衛騎士という身分を与えておいた方が色々楽である、という国王の判断であった。


「よう、元気か?」


 ジュノーンはこの会議室で唯一自分に対して好意的なエルフ娘に話し掛けた。


「ぼちぼちね。謁見はどうだった?」

「なんだかいきなり将軍にされたよ。だからここにいるんだけどな」

「あら、おめでとう」


 ヴェーダはわざとらしく拍手を送った。

 ジュノーンにとっては有り難い話ではなかっただけに、顔をしかめる。彼はあまり大きな責任を負いたくなかったのだ。

 

「あ、そうだ……これ、返すよ」


 ジュノーンは胸に仕舞っていた炎の精霊サラマンダーの加護が込められた精霊石を取り出し、エルフ娘に渡した。

 

「竜の炎相手に役立ったかしら?」

「ああ。これがなかったら、初っ端で灰にされてただろうな」


 ジュノーンは肩を竦めて笑って見せた。

 無論、この石単体では火竜の吐息には耐えられなかっただろうが、ジュノーンは自らの黒炎をこの精霊石に送って強化し、火竜の攻撃に耐えた。この精霊石がなければ、冗談ではなく灰にされていただろう。

 

「役に立ったならよかったわ。恩は一生懸けて返してね」

「おいおい、何を要求する気だよ」

「さあ、何にしようかしら? 人間の一生は短いから、五十年くらいで返せそうなものを考えておくわ」

「ほとんど爺になってるじゃないか」


 エルフにとっての五十年は短いが、ジュノーンの年齢で五十年と言えば、間違いなく一生を終えているだろう。

 

「長生きしなさいって事よ」

「……本当にそう受け取っていいのか?」


 ジュノーンの問いに、ヴェーダは喉の奥で笑って首を傾げてみせる。


「あ、そうだ。ヴェーダ。一つ気になった事があるんだ」

「何かしら?」

「リーシャに一体何があった? 何か、二週間前と雰囲気が変わった様に思うんだが……」


 ジュノーンは謁見の間であった事を話し、リーシャについての変化について気になった事を述べた。


「多分、それもこれから知る事になると思うわ」


 ヴェーダは片目を瞑って応えてみせた。

 それと同時に、フリードリヒ王とイエガー宰相、そしてリーシャの三人が会議室へと入ってきた。

 エルフは人間よりも聴力が遥かに高い事から、彼らが会議室に向かっているのが判っていたのだろう。

 リーシャはジュノーンの顔を見るなり、すぐに顔を綻ばせて彼に手を振る。一方の銀髪の青年は、国王の威嚇する様な視線を感じながらも、王女に手を振り返す。

 金髪のエルフ娘は、そんな二人のやり取りを喉の奥で笑って眺めるのだった。


「ジュノーンよ、貴様、浮かれるでないぞ」

「はっ!」


 フリードリヒ王の火竜にも劣らないほどの圧がジュノーンに加えられ、彼は慌てて平伏するのだった。


「まあ、良い。早速始めるぞ。各々座るが良い」


 フリードリヒ王は鼻を鳴らして、席に座る様に促す。

 これから会議が始まるのだった。

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