第50話 試練②
五体のゴーレムがリーシャとヴェーダに向かって進んでくる。
これらのゴーレムが
リーシャは〝マルファの聖剣〟を抜き、ヴェーダもレイピアを抜く。ヴェーダの弓はこの狭く見通しの悪い洞窟内部では不利だ。それに、あのゴーレムに致命傷を与えられるものでもない。
「リーシャ、とにかく動いてかく乱させるわよ! こいつら、動きは鈍いから」
「はい!」
エルフ娘の言葉に、王女が応える。
実際にゴーレムの動きはかなり鈍かった。機敏な彼女達であれば、当たる事はない。
しかし、その反面攻撃力が凄まじい。彼らの突き出す拳は、洞窟の岩壁を簡単に砕いていたのだ。
その壁に埋め込まれた拳を見て、リーシャは唖然とする。女の中でも華奢なリーシャとヴェーダでは一発でも当たれば致命傷となる事は間違いない。一つ一つの動作を注意深く見なければならなかった。
まず、リーシャは<
聖魔法により怯んだゴーレムに、ヴェーダは追い打ちを駆けるように突撃し、人間で言うと心臓がある場所──即ち胸のやや左側にレイピアを突き刺した。しかし、ゴーレムにとっては致命傷にならず、拳を振り回して反撃してくる。
「ちっ……さすがに硬いわね!」
金髪の美しいエルフは流れる様な動きでゴーレムの反撃をかわしつつ、レイピアを引き抜き今度は右胸部に突き刺した。これには堪え切れなかったのか、ゴーレムが倒れる。
その後ろから別のゴーレムがヴェーダに向かって拳を振り上げたので、リーシャが〝マルファの聖剣〟で斬りかり、援護する。
今回の敵は謂わば人形だ。この剣で攻撃しても問題ない。それに、この聖剣でなければこの魔物には致命傷を与えられないと判断したのだ。
まずリーシャはゴーレムの足の部分を斬り、足下から崩した。〝マルファの聖剣〟は破魔の力も付与されている様で、岩の様に硬いゴーレムでも簡単に貫く事ができる。
足を切られバランスを崩したゴーレムの顔面めがけてレイピアを突き刺したのは他ならぬヴェーダだ。更にリーシャが肩口から聖剣で一閃し、ゴーレムの体を切り裂く。
青髪の王女と金髪のエルフの連携攻撃はゴーレムの行動速度を遙かに上回り、二体目のゴーレムも瞬く間に停止させた。
リーシャとヴェーダは距離を取る為、同時に後方に飛んだ。
「やっと二体ってとこかしら? なんて頑丈な奴らなのよ」
ヴェーダは舌打ちして愚痴った。
通常の人間ならば致命傷を三回くらいは与え、ようやく倒れる始末だ。
どちらかと言うと肉弾戦より魔法戦を得意とする二人には厄介な相手だった。
「そうですね……あと三体。ヴェーダ、何か使えそうな精霊魔法はありますか?」
青髪の王女は息を吐き出し、一息吐く。岩をも砕く破壊力を持つゴーレムの中に飛び込むのは、実戦経験の少ないリーシャにはまだまだ過酷だった。
また、リーシャの聖魔法<
「だめよ。風の妖精〝シルフ〟はこんなに地中深くまで来てくれないし、木の妖精〝ニンフ〟もあんな人形を魅惑する事なんて出来ないもの。それに、さっきからこの松明が邪魔で──」
ふと右手に持っていた松明に苛立ちを示して投げようとするが、それを見てヴェーダがはっとする。
「あっ……これがあったわ。あまりエルフとしては呼びたくない精霊だけれど」
ヴェーダは独り言の様に文句を言った。
「リーシャ、下がっていて。火傷するわよ」
青髪の少女はこくりと頷くと、ヴェーダの後ろに下がった。
それを確認するや否や、ヴェーダは持っていた松明をゴーレム三体がいる真ん中へと投げ込んだ。
「
ヴェーダが詠唱すると、松明の炎が強く燃え上がり、その炎の中から炎の蜥蜴が現れた。
ゴーレムは乾燥していて動くだけでもビキビキと体にヒビが入っていた。
リーシャとヴェーダは顔を見合わせて、二人して三体のゴーレムの中になだれ込む。
まずはリーシャの<
リーシャの剣術はかのハイランド〝賢王〟直伝なので、技術だけで言うならそもそもの地力も高い。それに加えて強力な切れ味や特殊能力を持つ〝マルファの聖剣〟、さらには聖魔法もあるので、リーシャ単体でもかなりの強さを持っている。この聖剣があれば、彼女は回復魔法も扱える魔法戦士として、名を馳せる事ができるだろう。まるでこのゴーレムとの戦いは、それを確認する様でもあった。
全てのゴーレムを倒すと、その階層から生物の気配が消えた。
「これで終わり、でしょうか……?」
「ええ……全く、余計な事させてくれるじゃない」
ヴェーダは不機嫌そうに松明を拾った。
ヴェーダ達森の妖精エルフ達にとって、
本来、森のエルフとしては呼び出したくない妖精だった。火は長い年月を掛けて育った木々を一瞬で焼き払うからである。その為、エルフ族の掟では
ヴェーダはその様な習慣や禁忌など気にしない質では合ったが、やはり気分の良いものではなかったのだろう。
「先を急ぎましょう。もうあんな人形と戦うのはごめんだわ」
「はい。私もです」
二人は苦笑を交わすと、奥の階段へと歩み進めた。
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