第49話 試練
リーシャとヴェーダは、洞窟の階段を降りて行く。
洞窟の中では、どこかから入ってくる風の音と、二人の足音だけが響いていた。
明かりがあったのは、階段のところまでだった。階下に降りた途端に明かりを照らしていた明かりが全くなく、何も見えなかった。おそらく結界が張られた後は誰も入らなくなり、明かりの必要性もなくなったからだろう。
「さすがに暗いわね……」
ヴェーダが独り言ちた。
「さすがにこの暗さだと危ないですね。ちょっと待っていて下さい」
リーシャは先程神殿で渡された松明を灯す。
すると、あたりがぼんやりと明るくなる。この松明は聖魔法による
「とりあえず、進みましょう」
王女の言葉に、エルフ娘は頷いた。
階段を降りては進み、降りては進み……入り組んではいなかったが、その深さに途中で心が折れそうになった。
しかし、洞窟に入ってから一時間程経過した頃である。階下に降りた時に、リーシャとヴェーダは同時に違和感を覚えた。何かがある、という違和感。
互いに顔を見合わせ、注意深く一歩一歩と進む。
「これがその結界ってやつね」
「多分……」
美しいエルフとハイランドの王女は、同時にごくりと唾を飲む。
部屋の中央を区切るように、可視できる程の強力な結界が張られていたのだ。
ヴェーダは足下の石ころを拾って、その結界に向かってひょいと投げると、石ころはバチッと音を立てて粉々に粉砕された。
金髪のエルフ娘は口笛を吹いて、その呆れを表現した。
「このまま突っ込んでたら私達もこうなってたかもね」
「ですね」
二人は顔を見合わせ、互いに苦笑を浮かべる。
「かなり難解な結界そうだけど……一人で大丈夫?」
ヴェーダがリーシャに訊いた。
エルフ娘が心配するのも尤もだ。この洞窟にある結界は、軽く見積もっても〝帰らずの森〟よりも難易度の高い結界術式である。並みの術師は愚か、ヴェーダでさえも簡単には解除できない代物だろう。
「はい……頑張ります」
私がやらないといけない事なので、とリーシャは松明をヴェーダに渡した。そして、五芒星の印を胸元に結び、結界の解除を試みる。
ヴェーダは周囲に何か起こらないかを注意深く見回した。自然と腰のレイピアに手が触れていた。
リーシャが古代神官語で詠唱を始めてから暫く経った頃、彼女の表情が少し変わった。
「光の神〝ミルフィリア〟よ……汝の力を以て、かの結界を解き放て」
リーシャがそうつぶやくと同時に、パリンという音が洞窟内に鳴り響く。目の前を見ると、先程可視できていた結界は粉々に砕けて消え去った。
「え、もう解除できたの?」
「はい、ばっちりです。ちょっと苦労しました」
リーシャは先日のようにVの形を指で示したサインを笑顔で送り、ヴェーダの問いに答えた。
「……ほんと、デタラメな力ね」
「え? 何がですか?」
「何でもないわ。さすが光の五大使徒の末裔ってところかしら?」
エルフ娘は肩を竦めてそう言うが、リーシャは何の事かわからず首を傾げた。
リーシャ個人としては、思ったより苦労したな、と思っていた。結界の解除は彼女の得意とするところだったのだが、魔力と体力、共に想定より消費していた。
「さあ、早く行って終わらせるわよ。この階段をまた登らないといけないのだしね」
リーシャの体調を慮って、ヴェーダが急かす様に言った。
王女もその言葉に頷き、前に歩を進めた時だった。
結界が張られていた奥から、気配を感じた。
ヴェーダが慌てて松明を奥に向けると、なんと奥から魔物が五体向かってきたのである。ゴーレムと呼ばれる、石で作られた動く人形だ。
「こ、これも試練……なんでしょうか?」
「〝
リーシャはひきつった笑みを浮かべ、それとは対照的にヴェーダは額に血管を浮かばせて不快感を顕わにしていた。
彼女達が思っていた程、試練は簡単なものではなかった様だ。
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