第16話

いつ終わる?

すぐ終わってほしい。

もういいのに。

俺の心臓はまだ動いていた。

まだ考えることできた。

五感が生きてる。

俺は俺を抱き締めるカンザキの姿をした個体の肩に顎を乗せ、そうだ鑑定でもしようかな、と思った。

そう言えばしてなかった。

失敗失敗。

俺は失った右目の代わりにいれた魔眼、『鑑定』の力持つ眼に魔力を注いだ。

ん、ちょっと、魔力集めにくいな。

地上に居るみたいだ。

弱ってる証拠か。


薄ら笑い、それでも発動した眼で鑑定する。

…後頭部と首しか見えないな。

もう少し見ないと鑑定できませんぞ。

俺はそろそろ横を向いた。


カンザキの姿をした個体が、ネックレスをしていることに気付いた。

俺が得た『鑑定』の魔眼は、事実を鑑定した者文字で表示し教えてくれるのだ。

ただ鑑定物の四割くらいは見ないと鑑定出来ない。

と、いうことで魔眼がネックレスの鑑定を行った。


『ネックレスの鎖・純ミスリル製』


なんと、ミスリルで出来ている。

しかも純ミスリルとか、すごいな。

良い物装備してんな。

俺は興味本位でトップにはどんな物が、と。

チェーンを指で引っ張った。

俺の怪奇な行動に慣れてしまったカンザキの姿をした個体は、黙って俺を抱き締め続けてる。


するする、するする。

あと、すこし。

トップが、出て、きた。


俺は目を疑った。


「そんなまさかうそだ」


しんじられない。

まぼろしだ。

つごうのよい、まぼろしだ。


だが。


俺の魔眼は幻をも見抜く。

だから幻を見抜いたってよかった。

けど、そりゃ、さめたくないだろさいごまで。

終わりまで綺麗な幻に居たかった馬鹿な俺を俺は責められないよ。

だから、もうすぐ終わりだから、せめてモンスターの正体だけでも知っとこうって、鑑定しようって思ったのに。


俺の魔眼が鑑定してしまう。


『ネックレスのトップス・スターライト石』


それは、これは。


輝く星が一個入ってるように見える宝石。

膨大な魔力が籠っている魔石。

俺しか発見してない、神級アイテム。

俺が。

俺が、


カンザキにあげた、物。


あの日、あげた、最初で最後のプレゼント。


まさかそんな。


鑑定が。


『ネックレスの制作者・古壱』


そう、俺に、教えてくれた。


だってこれは。

まさか。


あらゆることからカンザキを護りますようにと。

そういう付与を。

そういう機能がついてるのを。


鑑定が教えてくれた。

知ってること、教えてくれた。


「あぅあ…ぅぅ…」


口が回らず震える。


拘束が緩み、気遣うように見下ろされる。


「かんざ、き…はな、れて…くれ…」


昏い目になる。

無表情だ。


それでも俺から離れ二歩三歩、下がって車に項垂れている。


鑑定もなにもかも信じられない。

幻じゃない真実を、世界の本当を鑑定しようとしたらなにも表示されなかった。

幻かどうか。

真偽。


それには、これしかない。


俺は唱えた。


目の前の生物を殺す呪文を。


俺の影が一層黒くなる。

それは毒の闇。

影から生まれ蠢き這いずる。

俺の切り札だ。

静かに斃す必要性がある為、俺が編み出した技だ。

殺す気で、けしかける。

必殺だ。

失敗すると俺が死ぬ。

リスクの高い危険な行為。


それでもこれしか、思いつかない。

俺は、これを、信じている。

心の底から、信頼している。


だから、これしか、確かめるすべがない。


影の毒蛇が、昏く沈んだひとの足先に、触れる。

その瞬間。

優しい光がそのひとを包み込んだ。

何が起きたのか戸惑うひとの胸元で、スターライト石がふわりと浮かんで微笑むように輝き放つ。

そのまま、俺の毒の闇を消していく。

内包された星が、どちらも、護る。

優しい光が、俺を諭す。

なにをしているのだ、と魂を浄化するように。

あらゆることからカンザキを護るために。

カンザキが護りたいもの、まもるよに。


骨身に胸に、沁みた。

光が。


俺がどこにいるのか。

教えてくれる。


ダンジョン、じゃない。

空気が澄んでいる。

空には天体。

魔力は、ない。


ああ、そうだ。

おれはダンジョンコアを手に入れたんだった。

そしてダンジョンから抜け出したんだった。

でもおれはすごく疲れてた。

すごく傷ついてたんだ。

だってダンジョンのボスがさ、カンザキなんだぜ?

俺が白浜を奪おうとする悪い奴って言ってさ。

地獄じゃん。

地獄だった。

でもカンザキは俺を嫌いだから俺は躊躇いもなくカンザキを殺した。

傷ついた。

再起不能になった。

そりゃ、そうだろ。

誰が平気で居られる。

すきなひとのかたちをころしてもへいきなの。


そう、だから、ここはダンジョンじゃない。


もう、ダンジョンじゃないんだ。


こたえはひとつ。


こたえはひとつ。


「…かんざき…?俺、ここに、居る?」


少しずつ収まってく光。

消えない内に問う。

震えて怖い。


戸惑いっぱなしだったひとが、俺を見る。

しっかり見る。

いつも見てくれてた。

あれ?

思ってたより眼差し優しくない?


「…ああ居る。古壱は、ここに、居る」


そのひとは言った。

声が震えてた。

俺は吸い込まれるように胸へ、飛び込んだ。

引っ付いた瞬間、暖かくて優しいを感じた。


「あっあぅうううっ!カンザキっ!カンザキっ!」


骨が折れるんじゃないか、というほど抱き締められる。

息も出来ない。

でもそうして欲しい。

左腕一本、腰から背中、肩を掴んで顔を押し付けた。

義手の右腕は抱き締める力が無いのが悔しい。


「カンザキ…俺、地上に居るのか…?」


顔いっぱいの胸に問うと「ああ、地上に、居る」低い声が即答してくれた。


「カンザキ、俺、ダンジョンから還った…?」


匂いを体温を感じたくて、必死になって顔を擦り付ける。


「ああ、ダンジョンから、帰還している」


優しい声色の所為で、閉じ込めてた言葉が溢れ出た。


「カンザキ、俺…俺…カンザキが好き…」


一瞬の間、カンザキが俺をさらに強く抱き締めた。


「俺もだ古壱…ずっと帰還するのを待っていた。もう何処へもやらない。俺の傍に、居ろ…愛してる」


終わってしまっても良い、そう思った。

苦しい。

痛い。

なのに。

幸せだ。

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