第13話
全身ずぶ濡れになってしまった俺たちは、服と髪が乾くまで、浜辺に座ることにした。
幸い海の水は冷たかったが太陽と風が暖かく、流木にちょっと腰を掛けてたら髪はすぐに乾いた。
そーいや今の季節って秋?
地上って季節あるんだっけ、忘れてた。
時が経てば暗くなり、明るくなるとか繰り返すとか。
風、とか。
脅威が少なめ大自然とか。
忘れてた。
「地上って」
足で砂を掴んで離す。
「綺麗なんだよな、本当は」
さらさらしてて楽しい。
輝く水面。
二度と同じ形をしない海、波、景色。
あたたかく、時につめたい、けど、美しい。
当たり前じゃない。
失いやすい。
忘れやすい。
地上はホント、綺麗だ。
「…古壱は、ダンジョンが好きなのか?」
「…ダンジョンに居た方がましって、思ってた時期もあったけど」
独りで居たくて、たまらなくて。
「…俺は、もう、終わりたい…」
「…そうか…」
正真正銘俺の本音だ。
もう終わりにしたい。
青い空。
白い雲。
美しい海。
ダンジョンにはない。
俺はこれこそ至宝って思うよ。
当たり前だから気付かぬ、すべてに平等な宝物。
でも、いい。
俺は、もう、いい。
もう、終わりがよい。
ここは俺の脳内とか夢の中とかとにかく幻覚だ。
カンザキが、俺をデートに誘うはずがない。
カンザキが、こんなに俺に優しいはずもない。
惨めだ。
哀しい。
でも、少しだけ、そりゃ嬉しい。
隣を盗み見る。
険しい顔で海を見つめていた。
ホント、こわい目してる。
最初あった時から、切れ長のめっちゃ冷たくて怖い眼だった。
誰にも、自分にも厳しいのが、分かって、興味が湧いた。
白浜を見守る眼差しが、好きだった。
俺には、いっつもこわいやつだけ。
それでいいって。
諦めた。
未練なんかない。
むしろ、さいご、ゆめでも、まぼろしでも、あえて、うれしい。
俺は両膝を立て膝に顔を埋めた。
さざ波と風の音だけ聞こえる。
俺の左手をカンザキの姿をした個体が握る。
鋭利な刃物っぽくて驚いたけど、暖かく力強かった。
顔を上げられない時間が、長引いた。
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