第12話
VRを堪能した俺たちは、昼飯をとあるレストランで食べるために車で移動した。
目的地に到着した俺は、早く早くとカンザキの姿をした個体の手を引いた。
大胆かもしれないが、デートなのだ。
俺の、脳内デート。
素敵に終わらせてもらうためにも、楽しまなければならない。
俺はまだ遊びたいって言ったら「また連れて来てやる」って、カンザキの姿をした個体が言ってくれた。
はは。
また、だって。
次を期待させるとか、デート分かってんなカンザキの姿をした個体は。
それでもごねると「魚料理が絶品のレストラン…」優しい眼差しでそう呟かれ、俺はカンザキの姿をした個体の手を取り車へ向かった。
それを早く言え、というやつだ。
俺は魚介が大好きなのだ。
なにせダンジョンで食えない。
しばらく食ってない。
そうなると身体は素直だ。
じわじわ唾が出てくる。
ぐびって飲む。
カンザキの姿をした個体が「腹が減っただろ、急ごう」長い足を急がせてくれた。
レストランは海際に造られていた。
青空に白い建物…をよく見ていたらイカに見えてきた。
磯の香り、波の音、久しぶりに感じた。
カンザキの姿をした個体にエスコートされ席に着くと、次々美味い料理が運ばれ始めた。
ちょっと遅めの昼飯というのも相まって、腹減ってて好物で。
どれもこれも美味かった。
ハマグリ、サザエ、めっちゃ美味しい。
海がよく見える席なのも良い。
鯛美味い。
サーモンも美味い。
ひぃ、イカ、うま。
全部美味。
「でも、ぶっちゃけさ」
イクラ、ウメェ…。
うっほ、かにぃ…!
「モンスのお前が作った飯のほーが、美味いな」
この一週間内で、魚介類は何度か出された。
家庭的な料理ばっかだったけど、上手かった。
うん、比べると、上手かった。
「…」
褒めたのに、また眉間にシワが寄った。
あ、カンザキに対する俺の理想が手料理の味になってるから、褒めたことにはなんないのか。
精度の良い幻覚ですね、って言うべきか?
すぐに言い直そうとしたら、カンザキの姿をした個体がものすごくむっすーとしてしまったので、俺は閉口することにした。
折角のデートなのになんだよ、その態度。
「…」
「…」
食後のデザートを食べ終えても、カンザキの姿をした個体は一言も喋ってくれない。
すごくきまずい。
デート、なのに。
波が静かな海を眺める。
「あのさぁ」
「…」
「海、ちょっとだけ、行きたい」
「…分かった」
カンザキの姿をした個体が席を立った。
無表情すぎて、何を考えているのか分からない。
俺はかける言葉が見付からなくて、仕方なく、黙ってカンザキの姿をした個体の後ろを歩いた。
レストランを出て階段を降り、砂浜に出る。
真っ白な砂浜だった。
小波が寄せては返ってく。
誰も居ない。
カニが歩いてく。
振り返ると、二人分の足跡てんてん。
…なんか、楽しくなってきた。
俺は急いで靴と靴下を脱いだ。
ズボンの裾を少し捲り上げ、俺は海へ駆けてった。
「な、古壱っ」
「ははははは!冷てっ!はははは!」
裾が濡れないように気を付けながら、海の中小走りする。
カンザキの姿をした個体が慌てた様子で駆け寄って来た。
「お前も入れよ!」
「冷たいから出ろ」
「やだよー!何年ぶりの海だと思ってんだ、よっ!」
波に靴が濡れないギリギリのラインに立つカンザキの姿をした個体に、俺は水を蹴った。
きらきら水しぶき。
カンザキの姿をした個体にひっかかる。
「はははは!」
「っこのっ、三歳児がっ」
カンザキの姿をした個体が靴と靴下をポイポイ脱ぎ、ズボンの裾を器用に巻き上げ、俺に近寄りつつ水を掬った。
あ、ヤバっ。
「ぎゃあ!冷たい!」
頭から冷たい海水をひっかぶった俺は、仕返し思いっきり水を蹴り上げた。
「っ!やったなっ」
「こなくそー」
ばしゃばじゃ、俺達は海水を掛け合った。
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