第2話

目を開ける。

清潔な生活感臭。

このまま寝転がって居たい欲求が全身に絡みつく。

俺はそれを振り切り身を起こした。

右、腕が無い。

シャツとパンツしか身に着けてない。

何かないかと辺りを見回すが、残念ながら何も無かった。

ごく普通の、誰かの家の寝室ベッドの上。

状況を理解すべく眼だけ動かす。

窓があるので、最悪ここから逃げ出そう。

それにしても何も無い。

武器になりそうなものが、なんにもない。

コードの一本でもあれば、と思った時だった。

何かが、此方へやって来る気配がした。

二足歩行だ。

軽やかな足取り。

俺は静かにドア横へ背中を付けた。


「…あれ?…どちらへっっ!」


入って来た瞬間、俺はそれの首を掴んだ。

細い首だ。

このまま折るか。

左手に力を込めた瞬間、横合いから邪魔が入る。

蹴りだった。

危なかった。

飛びのき警戒すると、そこには、俺の地獄があった。


「貴様っ!何をしているのだっ!」


「か、神崎…」


「お怪我はありませんか、白浜様っ」


「僕は大丈夫です…それより古壱さんを…」


「おい、古壱っ!貴様何を……古壱?」


大事な子を、腕の中で守っている。

当然の行為。

自然な光景。

俺はそのざまを目に心に焼き付けてしまう。


地獄だ。


後ろ手に窓を開けようとした。

けど嵌め殺しで開かなかった。

あれを押しのけなければ、逃げられないようだ。

いや、逃げた所で、俺の地獄は終わらない。


俺は、捕まったのか。


幻見せるモンスターの巣に。

武器はすべて取り上げられてしまった。

この、目の前の、番は、俺に地獄を見せて、弱らせ、嬲る気か。

そう、理解した途端、俺は戦う気力がなくなった。


俺のダンジョン攻略は、ここで終わりだ。


せっかく、頑張ったのに。

ドジ踏んだ。


俺は疲れたので床に倒れ込んだ。

頭ががんがんする。

濃度の濃い油が体内で蠢いている感じがする。


「もう、どうでもいい…早く、殺してくれ」


埃ひとりない心地好いカーペット。

本当は汚い巣なんだろう。

それともこれは俺の脳内か?

けど、いい。

もう、どうでもいい。


「…か、神崎…古壱さんは一体…」


「分かりません…分かりません…どうして…こんな…」


なんかごちゃごちゃ言っている。

けど、もう、どうでもいいので、俺は寝ることにした。

次に目を覚ました時は、終わっていたい。

もう見たくない。

俺の、地獄。

もう、嫌だ。

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