勇者はダンジョンで夢を見るのか

狐照

第1話

今日という日を。

今日というこの日を。

俺は来ないで欲しいと俺は願っていた。

そんなことしても意味なんてないのは知っているのに、ひたすらに願っていた。

一日一日、毎日、目覚めて寝るまで、息をする度に、願った。

でも、やっぱり、来てしまったから。

終わりが。

俺の平穏な日々の終わりが。

俺の幸せな日常の終わりが。


諦めるしか、なかった。


「…なぁカンザキ」


なるべく好意を表さないようにする。

いつも抑えてる。

本当は意味なく名前を呼びまくりたい。

そして名前を呼んで欲しい。

高望みしすぎた所為だ、無言で睨まれた。


「ちょっと、屈んで」


訝しみながらも、いっつもスーツの背高さんが屈んでくれた。

それくらい、してもらえる、仲になれたことが嬉しい。

もう望まない。

これ以上求めない。

胸が、張り裂けそうだから。


俺は持っていたネックレスをカンザキの首につけた。

多分似合う。

きっと、似合う。

最初で最後のプレゼント。


「いいぜ」


俺は一歩後ろに下がった。

顔を上げたカンザキが、付けられたネックレスに触れる。

その表情を見ないように、俺は先に歩いて行ってしまった子の背中を見つめた。

護衛なのにここに何時までもいちゃあ、いけないだろ。

ここがあの子の私有地だとしても。


「もう、会えない」


足を急がせた。

追いつかないといけないから。


「もう、俺、でも、どうせ、カンザキは俺のこと、嫌いだから、いいよな別に会えなくなっても」


何か言ったはずなのに、分からない。

何か言われたような気もしたけど、聞いてられなくて、俺は前だけ見た。

前だけ見て、歩き出していた。

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