12章 すれ違いとは 

詩(うた)と同棲を始めてから、すぐに気がついたことがある。


詩は僕が思っていた以上に家庭的だった。


掃除や買出しはとてもマメに行った。


買い物上手で、得なものを時期を選んで購入していた。


アイデアも優れていて、100均で買って来たものを組み合わせて、家の中をどんどん快適にしていった。


どこからそんなアイデアが出るのか。


僕はとても不思議に思った。


結婚したい。


僕がそう思うまでそれほど時間は掛からなかった。


一方の詩は逆の意見だった。


家事を必要最低限、それも言われたことしかやらない僕に苛立ちを感じていたようだった。


僕としては、やったことに文句を言われるのは嫌だったから、言われたことしかやらない方が良いと思っていた。


実際、自分で気がついてやったことに関してはことごとく文句を言われるのだから、仕様の無い事だと思った。


当の詩はそれが相手を傷つけていることを理解していないようだったから、最早議論の仕様も無かった。


やっぱりな。


男側で考えることと、女性で考えることが全く違うのは既知だったから、大きな動揺はなかったが、実際に目の前で起きると不愉快であることは抑えが効かない感情であった。


それらの部分を除けば、詩との生活はとても快適だったと言える。


もちろん、詩には寂しい思いを沢山させたが、その実、僕にとっては係わり合いがそれほど無いことの方が楽でもあった。











「今週の休みどうする?」


詩は大体週初めに、週末の予定を聞いてくる。


僕はその会話を詩とするのが好きだった。


詩と過ごせる時間は大抵有意義で、詩の話を聞くのはとても心地がいい時間だった。


しかし、そのうち詩は提案したことに対して、難色を示すようになった。


刺激が無い。


詩の言い分はもっともだが、今後の人生で刺激があり続けることはない。


寧ろその安定を快く思える相手かどうかが重要である。


20代前半でそれを求められるというのも酷な話だが、僕にはそれがどうしても仕方が無いことに思えた。


詩のことは大好きであるが、どうしても否定しきれない価値観の違いが、目立つようになったのも、同棲を始めて割りとすぐだった様に思う。


だがそれが原因で詩と別れようとは一切思わなかった。


逆に、詩とならその溝もうめていけると思っていた。


多少時間が掛かるのは織り込み済みだ。









詩と出掛けるのは、基本的にかなり楽しい。


そんな服持ってたのと言いたくなる様な、新鮮な格好を披露してくれる。


詩はどこに行っても笑顔で、楽しんでくれる。


お互いものぐさだから、行く前は面倒なのだが、行ったら行ったで楽しい。


僕はそんな色んな顔を見せてくれる詩が好きだった。


しかし、その肝心な気持ちを言わなくなったのはいつからだろう。


詩について思ってばっかりで、口に出して言うことが無くなった。


好きなのに、好きと言わない。


当たり前と思って疑わない。


それ自体は幸せなのだが、お互いにそれをやると距離が出来るのも当然だ。


幸せが作る2人の距離。


すれ違いというのはこのことを言うのだろう。

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