11章 集団生活の資格

僕は比較的考え方が古い人間なのだと思う。


僕が子供の時、回りにいた大人たちはどこか昭和を平成に持ち込んだような人ばかりだった。


それが田舎と言われればそれまでだが、少なからず僕もその影響は受けている。


「そろそろさ、一緒に暮らさない?」


詩(うた)が社会人になって2年目のことだった。


詩から同棲しようと持ちかけられた。


そんなことは男から言うべきだという、自負が傷ついたが、それ以上に僕は同棲に消極的だった。


理由は詩が好きだから。


別の言い方をすれば自信が無かったからだ。


男は一家の大黒柱として、家族を養うべきだという考えが強い僕には、到底家族を持つというイメージが湧かなかった。


何かを変えなくてはならない。


しかし、現状をすぐに変えられるほどの力も行動力も無かった。


一方、詩はとても最先端の考え方をする人で、男が家計を支えるべきなどという考えは一切持ち合わせていなかった。


詩は2人のことだから、お金のことも家事のことも一緒に考えようと言ってくれた。


そのことに感謝をしつつも、不甲斐ない自分に対して無性に苛立った。


こんなことでいいのか。


一体何が正解なのか。


僕個人としては、誰にも相談できずに同棲の話を進めるのみだった。









現実的な不安に加えて、僕にはもう一つ懸念があった。


僕自身、家族というものを意識したことが無かった。


居ても居なくてもどちらでもいいもの。


それが僕の家族観だ。


小学生の頃から1人でご飯は食べるものだと思っていた。


中学生になって、自分の部屋が出来ると、ほとんどの時間をそこで過ごした。


高校生になってからは、家族と会話をした記憶などほとんどない。


家は1人で過ごすもの。


1人で好きなことをする場所。


特段家族に頼ったことも無く、誰かと暮らすイメージが全く湧かなかった。


絶対に必要なものだと言う事すら出来ない。


それに対して、詩は真逆の人生を送ってきた。


家には誰かが居るもの。


家族とはお喋りをするもの。


そんな価値観を持つ彼女は、家で1人で居る時間を嫌がった。


僕と詩は生活リズムが全く違う。


どうしても、彼女が家で1人で居る時間が長くなる。


それは彼女にとってかなりの苦痛であったことは、想像に難くない。


でも僕には共感が出来ないのだ。


詩の気持ちは理解出来る。


しかし、実際のところ、その辛さを分かってあげることが、僕にはどうしても出来なかった。


そんな無理を詩に強いるのも嫌だった。


本当に一緒に暮らせるのか。


同棲に対して、不安を持つカップルは多いが、僕のそれはもっと根本の部分にあったように思う。


つまるところ、集団生活の資格を持ち合わせていないのだ。

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