6章 もう、寝よ?
僕の折りたたまれて、小さくなった腕が詩(うた)に伸びる。
詩は僕の手が触れるたびに小さく声を漏らす。
詩の服を少しずつ脱がせていく。
暗くてよく見えない。
でも、詩がとても美しい。
それだけは分かった。
指が触れると詩が痛がる。
最初は触り方が悪いせいだと思ったが、そうではないらしい。
詩は初めてだった。
「え!?そうなの?」
「そんなに驚く?」
高校の頃付き合っていた彼氏とは、付き合いこそ長いが、お互い部活が忙しくあまりゆっくり会えることがなかったようだ。
それに、詩がそういうのはまだ早いと言っていたらしい。
詩は真面目だなあ、と思うと同時にとても愛おしく思えた。
詩の体に触れる。
僕の腕を掴む詩の手に力が入る。
詩が怖がっているのはすぐに分かった。
「詩、大丈夫?
ゆっくり進んでいこう。」
僕はそれだけ言って詩のおでこにキスをした。
「ううん、大丈夫。
私、大丈夫だよ。」
震える声が僕の理性を揺さぶる。
「明日、早いでしょ?
僕が大丈夫じゃないの。
もう、寝よ?」
僕は詩の頭をそっと撫でて、詩に服を着せていく。
「ごめんね。」
「どうして、謝るの?
僕こそ、ごめんね。
まだ早いね。
詩のことは大事にしたいから、少しずつ一緒に進んでいこ?」
詩は小さく、うん、とだけ返事をした。
「かわいいね。」
そう言って僕は詩の頭をもう一度撫でた。
翌日、僕たちはほとんど寝ないでディズニーに赴いた。
眠い。
朝から2人してそれしか言っていない。
お互いに気を使って、それ以降も寝られなかった。
日にちを変えることも選択肢にあったが、2人のテンションがそれを跳ねのける。
2人ともかなり前から楽しみで仕方がなかったから。
玄関まで来て思い出す。
詩、ヒールじゃん。
「結局どうする?これ?」
「僕がなるべく上手く回れるようにするよ。
辛かったら休めばいいし。」
「ありがとう。」
結局僕らは朝一番でディズニーに向かった。
眠たい目をこすりながら。
結果から言うと詩はヒールに屈することなく、閉園までディズニーを楽しんだ。
抜群のタイミングでアトラクションに乗り、こまめに休憩をして、見たいショーを全部見た。
詩とはその後何度もディズニーには行くのだが、後にも先にもショーの抽選が2回中2回当たったことはそれきりだった。
とにかく、沢山話をして、やりたいことをやりつくした1日だった。
隠れミッキーも探して歩いた。
それでも、詩の足は疲労をあまり覚えず、それは僕も同様だった。
よって、それは最高のディズニーとして2人の間でしばしば話題になった。
詩はその日も結局家には帰らず、僕の家に泊まった。
「さて、寝よっか。」
僕はそう言って電気を消す。
昨日はあまり寝てないし、なによりディズニーで歩き疲れた。
でも、眠れない。
詩が気になって仕方がない。
それは詩も同じだった。
昨夜と全く同じように僕に近づいてくる。
僕たちは同じようにキスをして、少しずつ詩の体に触れていく。
詩が痛がったところで、その日は終わり。
それを毎晩のように繰り返した。
いい加減帰って来なさいと詩が怒られるまで・・・
それから、大学が始まってからも詩は頻繁に遊びに来た。
学校のすぐそばにある僕の家が楽だったからというのも理由の一つだ。
そして同じような夜を繰り返すうちに、詩が少しずつ慣れてきた。
ある夜。
「もう、大丈夫だよ。」
詩が艶っぽく言う。
「分かった、良い?」
詩がこくりとうなずく。
初めて2人で寝るようになってから約1か月後、僕たちはついに交わった。
詩は少しだけ痛がる素振りを見せたが、すぐに声を押し殺すように全身に力を入れる。
僕たちはお互いを確かめ合うように、お互いをしっかりと感じられるようにギュッと抱きあった。
2人の唇が重なるたびに一体感を感じる。
少しずつ詩の力が抜けていく。
このまま時間が止まればいいのに。
そこには切り取るべき一瞬を感じることが出来た。
また、しばらくの間、僕たちは毎晩のようにお互いを求めあった。
時にゆっくり、時に激しく。
まるで理性を忘れ去ったかのように。
日が昇るまで夢中になったことが何度かあった。
「もう、寝よ?。」
その度にそう言って僕たちは抱き合うように眠りについた。
僕はその幸せが一生続くものだと信じて疑わなかった。
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