5章 明日、朝早いんだっけ?

前提として、日本の文系大学生は暇である。


ましてや一人暮らしの僕は言うまでもない。


更に大学の春休みという時間が、僕の退屈に輪をかける。


詩(うた)と付き合い始めてから1週間がたった。


この間、詩は毎日のように僕が住む水道橋に遊びに来てくれた。


それから2人で色んな景色を見た。


印象に残るのはスカイツリーからの景色でもなく、お台場の観覧車でもなく、2人で毎日歩いた水道橋の街だった。


2人で居られるならどこでもいい。


隣に詩がいる景色がとにかく最高で・・・










4/9、僕たちはディズニーランドに行く約束をしていた。


その前日、例に漏れず僕たちは遊んでいた。


時間を忘れて遊ぶとすっかり夜中である。


「帰るの面倒だなあ。」


「え?」


家に泊まる?って聞きたかった。


でも、そういうことを考えていると思われたくない。


僕は固まった。


「帰るの面倒だな。」


2回目。


確定演出だ。


僕でもわかる。


「あー、じゃあ家泊まる?

明日ディズニーだし、一緒に行けるね!」


「確かに、それが楽だなー。

あーでも、今日ヒールで来ちゃったな・・・」


「それきっついね。

結構歩くもんね。」


2人でうーんと唸りながら無いはずの終電を調べる。


「終電無いから泊まってもいい?」


というわけで、詩が泊まりに来た。


ヒールの件は明日に持ち越しということで、ひとまずこの最高の状態を楽しむことにした。


「シャワー先にいいよ。」


僕は詩を促す。


詩は恥ずかしそうに風呂場に行き、シャワーを浴び始めた。


人というのは何人と付き合おうとも、この瞬間を経験しなければならない。


つまり、その相手との初めての夜だ。


僕は人生で1人だけ、経験があった。


同じ要領か。少し違うか。


経験が豊富な訳ではないからよく分からない。


詩はどうなんだ。


高校で2年以上付き合った彼氏がいたなら、経験済みだろう。


うん、そうに違いない。


大丈夫。


・・・じゃない。


男というのは得てして、好きな女の子の初めてになりたがるものだと思った。


ガチャ。


詩が風呂から出る。


入れ替わりで僕も風呂場に向かい、その後お互いに寝る準備を済ませてベッドに入った。


「明日はディズニーだから、朝早いよ。」


詩がそんなことを言って、僕も同意して電気を消した。


















寝られるわけがないのだ。


2人ともソワソワである。


狭いベッドで折りたたんだ、お互いの手が触れるだけでドキドキする。


自然と呼吸が荒くなる。


鼻息うるさくないかな。


そもそも狭いベッドで邪魔じゃないかな。


気になるのはそんなことである。


僕は詩の方を向いて寝て、詩は僕に背を向けるように寝ている。


ふと、詩がこちらに振り向く。


お互いの呼吸音が分かる。


詩は少し顔が赤い。


見えないけど、体温で感じる。


僕はそっと詩の頬に手を当てる。


「詩、好きだよ。」


詩がそっと近づく。


詩は無言で目を閉じた。


2人の唇が重なって、体温が一気に上がるのが分かる。


2人の距離がさらに近くなっていく。


明日、朝早いんだっけ?


そんなことどうでもよかった。

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