哀悼
葡領マデイラ島
被雷した愛宕、利根、大淀、羽黒が軍民共用の港に入港、被害の大きかった利根と大淀は何度も応急処置を繰り返しながらなんとか島に辿り着き、愛宕、羽黒も意外と見えない傷が大きく駆け付けた米軍工作艦の設備では足らず、地上ドックでの修理の為、実咲達乗員はしばらく島に滞在する事となったわけである。
「そんなに落ち込むなよ、砲雷長」
「・・・・・・でも、朝霜も照月もそれぞれ乗員230名、遺体すら見つからんかった・・・・・・私達を守ろうと魚雷の前に出て・・・・・・実戦てこんなに苦しいんだね・・・・・・パパ・・・・・・」
今回、一緒の艦で出撃していた父親に寄り添われ、仲間達の眠る遠い海を見つめる実咲。
「実咲も、沈んでいった朝霜や照月の砲雷長も皆、精一杯戦った結果だよ。戦争なんだけん皆が無事とは限らない」
「・・・・・・」
弦はアメリーとそんな親子を草葉の陰から見守っていたが、すぐに林駿地少将に気付かれ、促されるまま実咲に声をかける。
「実咲・・・・・・林司令も言ってた通り、皆、精一杯戦ったんだよ、あれは誰も防ぎきれなかった」
「そうだよ、実咲の指揮は何も間違ってなかった、私はあんなに冷静に対処できないよ」
「弦さん、アメリー・・・・・・あんた達は切り替えられるの?一瞬で仲間達が・・・・・・朝霜の電測長、真紘は海兵同期で・・・・・・照月の航海長は弦さんの同期で、アメリーが連れてきた部下達、リサもアグネスも・・・・・・」
「・・・・・・」「・・・・・・」
「パパはさ、軍人だからこそ情は捨てるなって言うけど・・・・・・やっぱり辛いよ、悲しいよ、寂しいよ・・・・・・戦争なんて嫌だよ!」
駿地は少し逡巡し、俯く娘達に言いたい事を告げる。
「実咲、弦君、アメリー君、よく聞いて欲しい。お前達のその仲間を思う気持ちはかけがえのないものであり、決して捨ててはならん。それを捨てたら軍人は軍人でなくなってしまう。故に、今はとにかく散っていった仲間や敵将兵達を弔い、生かされたその命を守る事に努めよ、これは命令だ」
「「「はっ!」」」
今回の経験を経て、もっと強く清い軍人になって欲しいとの父親、上官としての思いを実咲、弦だけでなくアメリーも感じ取って返事をする。
散っていった仲間や殺した敵兵の喪に服すのは当然だが、次の戦いには備えねばならない、それが軍人という仕事なのだ、守る者は強くあらねばならないと。
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万和4年12月16日(日本時間)
マデイラ沖海戦 結果
日本海軍派遣艦隊 損害
駆逐艦2隻爆沈
巡洋艦2隻大破 2隻中破
空母1隻 小破
戦死傷者 560名(駆逐艦朝霜、照月乗組員計460名全員戦死)
英海軍潜水艦隊
Q型潜水艦5隻全滅
戦死傷者 120名
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