戯れ
2020(万和4)年 12月初頭 北大西洋 葡領マデイラ沖
日本海軍欧州派遣艦隊旗艦愛宕のCICは大騒ぎであった。否、実際には愛宕だけでなく艦隊全部で似たような状況ではあったが。
「マ式爆雷投射!続いてタ式対探知魚雷砲発射用意!」
マ式爆雷は主に真っ直ぐ来る通常の魚雷に対して有効な迎撃手段で、タ式砲というのは言わば焼夷弾をばらまいて、くねくね動く誘導魚雷に対し飽和攻撃を持って防御する手段であるが、艦隊密集時には味方艦の装甲板を巻き込む危険があるので、発射時には各艦十分距離を取らねばならなかった。
「砲雷長!全艦独自に回避行動中で艦隊が密集しているため、タ式は撃てません!マ式爆雷を掻い潜り魚雷計6本が本艦及び利根、大淀に接近中!」
「間に合わんか・・・・・・」
ビービーとけたたましい警報が鳴り響く中、実咲とアメリーが目を閉じて呟いた刹那、レーダーに映る魚雷が自艦愛宕、利根、大淀と次々に重なっていき各艦に水柱が上がる。
この攻撃により巡洋艦を守ろうと割って入った駆逐艦朝霜、照月の2隻が一瞬にして爆沈、巡洋艦利根、大淀は機関室付近へ被雷し炎上。愛宕も致命傷は免れたが速度低下が著しく、艦隊は旗艦を移し、愛宕達は艦隊から離れ、僚艦や敵潜の生存者探索、救助を行いながら中立国葡領のマデイラ諸島へ退避する事となったのであった。
同時期 大日本国 茨城県土浦市
この北関東の海軍の街で、元ベルリン日本大使深山は、沙羅と接触していた。
「沙羅ちゃん、久しぶりね。1人で来たの?お子さん達は大丈夫?」
「ええ、旦那がよくしてくれてるので・・・・・・それで深山さん、西欧・・・・・・イギリスフランスオランダドイツでは何が起きているんでしょう?」
「・・・・・・これはベルリンにいた時に、現地の忍者が掴んできた情報なんだけど・・・・・・」
「・・・・・・つまり、その未来から来た転生者達の戯れに実咲達は戦ってるって言うんですか!!」
そんな話を信じていいものかと沙羅は深山・・・・・・正確には中身のエリザベス(本物)に詰め寄る。
「私も信じたくない、でも今までの戦争だってそれぞれの大義名分こそあれ、本当に大層な信義があったのか怪しいのもいっぱいある、そうでしょ?人間はそうそう変わらない。歴史を変えたって世界が分岐するだけ・・・・・・沙羅ちゃんなら分かるよね?」
「っ・・・・・・戦争がなくなった人類が過去の戦争をショーに・・・・・・実咲達は俳優じゃないんですよ!弾が当たったら死ぬんです!映画の演技じゃなくて本当に命を賭して戦ってるって事が奴らは分からんのか!」
「実際の戦いを知らないならそんなものなのかもね・・・・・・今の独英仏蘭は彼らの手中みたいね」
「その四国だけですか?アイルランドはどうなってます?スカンジナビア諸国は?アイスランドは?東欧は?こっちの陣営では?!」
「まあ落ち着いて、今のところ確認出来るのはその四国だけよ、まあこっちの陣営はその辺の対策しっかり共有してきたしね」
日本政府としては度重なる転生や世界移動の報告から、万一に備え、米国、満州、ベトナム、パラオ、マレー、インドネシア等環太平洋連盟諸国全体で協議を行い、悪質時空間移動利用への対策を軍官民総出で行ってきており、万和4年現在では各国で法整備も対処も整っていたのである。
「まあ心配なのは分かるけど、実咲ちゃんもアメリーちゃんも大丈夫よ」
「はい・・・・・・」
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