クーリスマースがことしも




「やって来るわけねえんだよなあ」



と、大使館の武官デスクで溜まった書類を片付けながらごちっているのは林実咲海軍少佐である。

2018年12月、日本でいえば万和2年もそろそろ終わり、一般企業ではクリスマス休暇なるものもあるそうだが、公務員である軍人にとっては仕事納めまでに溜まった仕事を片付けるので手一杯だ。



「だったら早めに仕事片付けとけよ、これだから若いもんは」



「小島くんだって色々溜まってるでしょ!実咲ちゃんに当たってどうすんのよ」



嫌味を言う小島陸軍武官を窘める神田空軍武官。



「あの、伊澄さん、私は大丈夫ですから」



「でも本当、無理はしちゃダメよ」



「はーい、なんか伊澄さんお母さんみたい、えへへ」



いじらしく微笑む実咲に伊澄も母性をくすぐられる。

とまあ、なんとか三軍協力しながら仕事を終え、実咲は一旦家に帰って弦を連れ、深山大使考案のパーティに出席する為、大使館に戻る。



「僕、儀礼服久しぶりに着たよ」



「大使は軽装でいいって言ってたけど一応ね」




ベルリン日本大使館 小ホール



外務省職員、実咲達駐在武官、事務官等大使館員が正装で集まって、壇上の深山大使を見上げる。

大抵の職員は帰りてえなーとか遠慮なしに零していたが、大使の話も短く、用意された豪華な食事とワインの前ではそういった愚痴も聞こえなくなってくる。

そして、乾杯した後、実咲に声をかける者がいた。



「アメリー?!」



「深山大使にお呼ばれしちゃった。見てこれ、いつもの士官服と違ってかっこよく見えるでしょ?」



パリッとした儀礼服を見せびらかすアメリー。そんな出で立ちを見ると、下士官生活の長かった弦はつい敬語になる。



「アメリー少佐、またようこそ日本へ」



「そっか、ベルリンだけどこの大使館の中は日本か、てか弦さん固くない?」



「だ、だって正装の士官見たら自然とビシッとなるんです!林少佐、分かりますよね!」



「あー、私にまで・・・・・・てか深山大使はなんでこのパーティ企画したんやろ、しかも全部自腹とか・・・・・・」



と、そこへその深山本人が現れる。



「林少佐、柳少尉、アメリー少佐、最近君達よく一緒にいるね、プライベートでも交流促進するのはいい事だ」



「はぁ・・・・・・それで」



「なんでこのパーティを企画したかだね、まあ単純にさ、最近皆疲れて目が死んじゃってるから、こういうイブの日くらい羽伸ばして欲しいなあって」



「アメリー少佐はなぜ?」



「アメリー少佐はね、実咲ちゃん達と仲良いってのもあるけど、より日本というか日本人の事を知って欲しくてね、私が沙羅ちゃんに教えてもらったようにね」



「なるほど・・・・・・深山大使、ありがとうございます」



「いいえいいえ、じゃあ柳少尉もそんな固くならずに楽しんでね」



「あ、はい・・・・・・」



しかし2人の服装と階級章、胸の勲章を見てしまえば、いつものようにフランクに接したりできないのが、柳弦少尉という叩き上げ軍人の性なのであった。

しかしそんな弦もアルコールが入れば緊張も解け、妻と親友と一緒に存分にパーティを楽しむ事ができたのであった。






















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