アメリー来日
万和2年 9月 大日本国 東京市
突然、日本に行きたいと言い出したアメリーに付き合い一時帰国する事になった実咲達。
ここまで来てはもうしょうがないので、一応海軍省に顔を出してから、東京の街を歩く。
「凄〜い、確かに長春とか似てるかも」
アメリーの言う長春とは満州国の首都であり、世界中から資本が集まるアジア随一の金融市場でもある。そして、満州国が元は日英の実験国家だった経緯もあり、その街並みはこの世界の東京やロンドンとどこか似通っていた。
この世界の東京や長春には超高層ビルの摩天楼は存在せず(前作で沙羅が現代の東京をニューヨークのようだと言っていたが、それは1930年代のイメージ)、防災法と一極集中回避政策によって住居などの区画も広く取られ、大空襲で焼け野原となる事もなかったため、歴史的建築が数多く残るのもまたアメリーの心を躍らせる。
「本当に私、東京にいるんだ」
「で、どこ行く?」
「そうねえ、まずはキュージョー見てみたい」
「きゅーじょー・・・・・・あ、皇居ね。今どき日本人でも言わんぞ・・・・・・てか私も東京来たのそんなないけんどぎゃんして行けばいいか分からんな・・・・・・弦さん分かる?」
「まあちょっとこっちで仕事しとった事もあるけんある程度は、皇居のある千代田区方面ならあの電車に乗るといいかな」
この世界の日本は前世の高度経済成長が起こらずにモータリゼーションが緩やかだったり、沙羅の助言で環境問題にいち早く力を入れた事もあって、東京市電は現代でも市内のあちこちを走っており、地名等が分からないとどの電車がどこに行くのか分からないほどであった。
ちなみに運賃はこの万和2年現在で市内全域どこまで乗っても一律20銭(前世同時期の150円程)である。
まあそんな庶民の足、市内電車に揺られ皇居前停留所で降りる3人。
「わぁ、わぁ、本物だー、あ、頭下げなきゃ!」
興奮してなぜか柏手を叩き拝むアメリーに実咲も弦も苦笑いだ。
「アメリー、神社じゃないんだから柏手叩かなくても、天皇陛下は神様じゃなくて人間だからね」
「周りの人も皆苦笑いしてたし、最近は僕達日本軍人でも宮城遥拝とかしないからね」
「そうなの?!でも天皇陛下って日本人にとって特別なお方なんでしょ?」
「まあ確かに日本ていう国の元首、僕達日本人の象徴となるお方ではあるけど、皆自然と敬ってるというか・・・・・・言葉で表すのは難しいね」
「そうなんだ・・・・・・ドイツはしばらく王室も皇室もないから分かんないなあ」
今のドイツにも王室等あれば分かるのかなあと少し納得するアメリーである。
そして、皇居を見た後、一行は向島の旧エリザベス邸日米友好記念館を訪れる。
ここに来るのは実咲としても初めてで、3人ともテンションが急上昇である。
「この写真の人がエリザベスさん、横にいるのが沙羅のひいじいちゃんの博さん・・・・・・」
「エリザベスさんの笑顔、やっぱ沙羅ちゃんに似てるね」
「弦さん、実咲、私漢字読めないから説明文とか教えて」
「あ、そっか、じゃあまずこれは・・・・・・戦後世界秩序の取り決め・・・・・・英仏を中心とした欧州植民地の取り崩しを図り・・・・・・エリザベス大統領と吉田首相の間で密約を・・・・・・うわぁ、沙羅えぐい事してたなあ」
「大戦中の日米密約は今や周知の事でしょ、ロシアも一枚噛んでたらしいけど」
「そうなんだ、歴史の授業は私あまり得意じゃなかったから」
「それにエリザベスさんも吉田さんもいなかったら、戦後のドイツはもっと苦しかったと思うし・・・・・・まあそんな話は置いといてさ、これなんだろうね?」
当時の写真やエリザベスの直筆の手紙、当時エリザベスが吸っていた煙草等が展示される中、一際アメリーの目を引くものがあった。
「食品サンプル・・・・・・?メロンパンアイス?説明文弦さん読んで」
「えーと、これは当時エリザベスがその類稀なる発想力から考案したスイーツで、まず彼女はメロンパンの製法を国内製パン会社へ伝授、次いで暖かいメロンパンに冷たいアイスクリームを挟んで食すのはどうかと提案し、製パン、製菓業大手役員達に気に入られ、昭和22年の夏、原宿駅前で最初に売り出し、世間からも好評で、その様子が新聞ラジオテレビでも取り上げられ、一気に全国へと広がって行った・・・・・・へー、メロンパンアイスってこうやって出来たんだ」
「暖かいパンにアイス挟むなんて普通考えないよね、エリザベスさん、いえ、沙羅ちゃん凄い!」
「あいつの事だけん、多分前世で食べてたもんを持ち込んだんやろけどね、メロンパンの作り方知っとったんやなあ、今じゃ料理なんかいっちょんせんくせして」
「そうなんだ、沙羅ちゃん会ってみたいなあ」
まだ顔も見た事がない親友の親友の想像を膨らませるアメリーである。
つづく
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