噂の若い海軍武官はお前か
実咲が最初に挨拶した際に、陸軍武官小島瀕少佐から帰ってきた言葉がそれだった。
(は?こんなか弱い女子(当社比)を捕まえていきなりお前呼び?)
「こんな小娘を外国によこすとか、本当に大丈夫かねえ海軍は」
「ちょっと小島くん!この子もこの若さで私達と階級は同じなのよ!それだけ優秀って事でしょ」
そう言って小島を諭すのは神田伊澄空軍武官、やや年配の女性将校である。
「林少佐も何か言い返しなさいよ」
「いえ、まあ小娘なのは確かですし・・・・・・仕事で見返しますから」
実咲があまり気に留めない様子を察したのか、小島は更に悪態をつく。
「大体父親も海軍士官でコネで来たんじゃないのか」
「小島くん!」
「神田さんだってそう思わないですか?こんな若くして佐官にまでなって海外大使館付きになるなんて・・・・・・「小島少佐、やめてください」
「お、図星か?」
「確かに私の父は海軍将官です、父に憧れて海軍に入ったのも事実です、が、父のコネで私が今ここにいるという事実は一切ありません!そんな事をしたらうちの父が黙ってはいません、それに私はあくまで実力で今の立場を手に入れたんです、それは同期達もよく知っている事で、私に恨みを持つどころか彼らは私を常に心配してくれて・・・・・・」
「林少佐、落ち着いて」
父親の事を言われ、 興奮して捲し立てる実咲を宥める神田。
そして普段は使われない応接間に連れられた実咲は落ち着いて神田と話をする。
「林少佐・・・・・・いちいち階級付けるのめんどくさいわね、実咲ちゃんって呼んでも?」
「はい」
「あ、私の自己紹介がまだだったかしら」
「空軍武官神田伊澄少佐ですよね」
「あら、名札見ただけで覚えてくれたのね、私の事も階級はいらないから名前で呼んでいいわよ」
「伊澄さん・・・・・・?」
「うん、それでいい、それで・・・・・・お父さんの事言われたから腹が立ったのよね?」
「はい・・・・・・父は私の憧れの軍人で、それをあんな風に言われると・・・・・・」
「実咲ちゃんのお父さんは私も小島くんも何回か会った事あるわ」
「え?」
「たまに三軍の合同演習やるでしょ?その時にちょっと話して、私は素晴らしい人だと思ったけど、小島くんの軍人像とは合わなかったみたい」
「小島少佐の軍人像・・・・・・」
「彼は常々「軍隊は戦わざるが1番だが戦ってこそだ」って言ってたから」
「でもそれは、うちの父・・・・・・と私の「戦わざる軍隊」の考えも似たようなものでは・・・・・・」
「そうなんだけどねえ・・・・・・彼はあまり難しい事は分からないみたいで」
「なるほど、ある意味素直な人って言うわけですか」
「そうよ、決して悪い人じゃないから、さっきも実咲ちゃんが捲し立てた時、ちょっとしゅんとしてたでしょ?」
「そうですか?」
「そうよ、いやあでもさ、実咲ちゃんは強いのね」
「え、どこがですか?根性と気合ならそりゃ誰にも負けませんが」
「そういう事じゃなくてね・・・・・・なんていうか、さっきあんな事があっても小島くんの事、嫌いにはなってないでしょ?」
「まあ好きも嫌いもお互いにまだよく知りませんしね」
「じゃあ私の事は好きになってくれる?」
「それはこれからの伊澄さん次第ですね」
「はっきり言うね・・・・・・まあ私も大使も色々とサポートするからね」
「ありがとうございます・・・・・・あ、小島少佐」
女2人で話している所へ申し訳なさそうにドアを開ける小島。
「・・・・・・あの、林少佐、さっきはちょっと言いすぎた・・・・・・別に林提督の、君のお父さんの事を悪く言うつもりとかなくて・・・・・・それで・・・・・・」
「まあいいですよもう、私もちょっと興奮しちゃってごめんなさい、まあ見ての通り何も知らない小娘なので色々と見守ってください」
満面の笑顔で改めて頭を下げる実咲にたじたじな小島である。
「お、おう・・・・・・頑張れよ」
「はい!」
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