『夕暮れ時の校舎と海④』
「まだ夏じゃないからそんなに人はいないですね。」
桜が海岸に降りるための階段を下りながらそう言った。
この海岸にいるのは観光客も多少は居るが、今は殆どがうちの生徒たちだ。
「てか今日はそんなに風強くないな。」
いつもは海岸だから風が強いのだが、今日は比較的穏やかになっている。
というか、この前と比べて流木がまた多くなっている気がするが、気にしないでおこう。
「それにしても千春くん、遅いですね。」
桜が校舎を見ながらそう言う。
僕はその言葉に対して、
「多分、あの先生のことだから『めんどくせぇー』とか言って中々、動いてくれないんでしょ。」
「なんか…その光景が浮かぶのは3年間、担任が厚木先生だからでしょうか…」
「うん、そうだと思う。」
僕らは校舎を眺めながら会話をした。
すると、こちらに手を振る見慣れた人物が見えてきた。
「あ、千春くんですね。」
桜がそう言い、手を振り返す。
意外に振り返す子なんだな、と思いながら僕は千春が到着するのを待った。
そして、千春が到着するなり、
「遅い。」
と呟いた。
それに対して千春は、
「仕方ないだろぉー?タカさん、動いてくれなかったんだから。」
と言った。
その言葉に対して桜は『ふふっ』と笑い、僕に対して、
「黒夜くんが言ってたこと、本当に当たってましたね。」
と言った。
「え、どゆこと。」
千春が桜に今言ったことを尋ねたが僕はそんな千春に言葉を発する。
「んで、肝心の先生は。」
そう。
うちの担任の姿が全くないのだ。
「あぁ、多分もうすぐ来ると思う。」
千春は僕の言葉にそう答える。
そして答えた瞬間に白衣姿の、完全に端から見たら科学教師にしか見えない人が階段を降りてくるのがはっきりと見えた。
そして僕らに近づくなり、
「本当だ。川崎がいるわ。」
と桜がいることに対して言葉を発した。
「なんすか、タカさん。信じてなかったんですか。」
「当たり前だろ。部費の欲しさにお前が捏造したかと思ってたわ。」
「俺のこと信用してないってことですよね、それ。」
千春が先生にツッコミを入れる。
その間に桜が入り、先生に話し始めた。
「これから部員としてもよろしくお願いします。」
律儀すぎるでしょ。
と僕は思ったが、それに対して先生は、
「特になにもしない部活だぞ、ここは。」
と答えた。
確かにそうだが、もうちょっと顧問として良い言い方はないのか。
と思ってしまったが、まぁ、この人の性格だから仕方ないかと僕は考える。
「じゃ、タカさん、撮ってくださいな。」
千春がスマホを先生に差し出した。
そして、僕たちは校舎が背景に入るように工夫をし、写真を撮ってもらった。
「あ、夕陽に染まった校舎がちゃんと良い味出してますね。」
桜が撮った写真を見てそう言う。
「エモいな。」
千春がそれに続けて言うが、それ使い方あってんの?と僕は思う。
でも確かに、海が近い校舎ならではの写真だなと僕は海を見ながらそう感じた。
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