『夕暮れ時の校舎と海③』
「さっきからなに見てるのさ。」
千春が漫画を読み終えてからずっと海を眺めていることに僕は気づいていたが、なにも言わずに放置していたら可哀想に思えてきたので声をかけることにした。
「特になにも見てない。」
「じゃあ平日なのに海へ遊びに来てるカップルでも見下してんの。」
「考えがやばいな、お前。」
まぁ、千春はそういう性格じゃないことぐらいとっくの昔から知ってますけど。
そんなことを思っていると桜が口を開く。
「私たちにとっては当たり前の光景ですもんね、海って。」
言われてみれば確かにそうだ。
生まれた時から近くに海があって、夏は江ノ島の方の海に海水浴に行って、それにこの学校も夏の体育は殆どが目の前の海岸を使ってる事が多い。
「あっ、陸上部が走ってる。」
千春がうちの高校の陸上部を見つけ、そう言った。
こんな風に校外に出てトレーニングをする部活も多いほど、海というか海岸は僕らにとっては当たり前になっている。
「江ノ島は夏になるとやっぱり観光客は多い?」
僕は桜にそう問いかけた。
桜は江ノ島で『川崎屋』という旅館を開いている家の娘さん(らしい)だから、僕らが知らない江ノ島のことを知っていると思ったから。
「多いですよ。私の家も宿泊される方で混雑しますし。」
「人口密度凄そう。」
「でも朝は少ないです。大体、お昼ぐらいからですかね。」
やっぱり朝はそうなんだ。と僕が桜の話を聞いて思っていると、千春が突然、
「よし!今日の部活終わり!海行くぞ!海!」
と立ち上がり、大声を出してそう言った。
僕と桜はその声に驚き、千春の方を見た。
「急になに言ってんの…。」
僕は千春に対して、そう言う。
だって、普段は海を見てもそんなこと言わないから。
僕の言葉に続けて千春が喋る。
「部員も増えたしさ、記念ってことで。」
「そしたら次、増えた時も海行くことになるじゃん。」
「お、それ良いね。伝統にしようか。」
「しなくてもいい。」
僕は千春の言葉にため息を吐く。
すると桜が、
「…先生に頼んで写真撮って貰うことにしません?」
と自身が読んでいた漫画を閉じ、千春と僕にそう言った。
その言葉に対して千春は指をパチンと鳴らし、
「めっちゃ良い考えじゃん。タカさんに話してくるわっ!」
と言い、職員室に走っていった。
その際に、
「七里ヶ浜海岸で集合だから!」
と言って出ていった。
てか、廊下は走るなよ。ちーくん。
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