『新たな入部者②』

「いや、えっと…。」


急に開いた扉の前で川崎さんは腕を後ろに組んで何か言おうとしていた。


少しダボっとしたカーディガンを着て、袖は萌え袖にしており、髪型は姫カットと言われる感じになっており、3年生の女子の中では人気上位に入っている川崎さんがこんな学校の端っこの空き教室を部室として使ってる部活に来ていることが今の僕は不思議でたまらなかった。


「…ん?千春、川崎さんが持ってる紙ってさ。」


僕は川崎さんが何かを持っていることに気がついた。

それを千春に直ぐ言うと、千春は自分が座っていた席を立ち、川崎さんへと近づく。

そして千春は川崎さんに対して、


「それさ、もしかして入部届けの紙?」


と質問した。

するとその質問に対して川崎さんは、


「さ、3年生でも新しく部活に入るのは大丈夫だって先生に教えてもらって、そ、その…。」


と顔を下に向けながらそう答えた。


「そっか。じゃあその紙、受け取っても大丈夫?」


千春は女子に慣れている感じの言葉遣いで川崎さんにそう言う。

川崎さんはそんな千春の言葉にまだ顔を下に向けたまま、無言で頷き、持っていた入部届けの紙を千春に渡した。

そしてその紙を千春は受け取ると、次は僕に対して、


「黒夜、これタカさんに渡してくるから、適当に部活のことでも案内しといて。」


と言い放ち、すぐさま部室を出て行ってしまった。

僕は内心『めんどくさ…』と思ったが、ずっと扉の前に立たせているのも可哀想なので、自分も座っていた席を立ち、川崎さんへと近づく。


「ね、川崎さん。」

「は、はい!?」

「いや、そんなに大声で返事しなくても聞こえるよ…。」

「ご、ごめんなさい…。」


案外、内気な子なんだなと思ったが、それはとりあえず置いとくとして。


「ちょっと聞いてもいい?なんで3年生になってからうちに入ろうと思ったの?」


そう、この部活は僕と千春が1年生の時に創部した部活だ。

そして川崎さんも1年から同じクラスならば僕らが創部したことは絶対に知っている筈。

それなのに今頃になって入部してきたのが僕は不思議に思っていた。


「ほ、本当は…。」


川崎さんが僕の質問に答え始めた。


「1年生の頃に藤沢くんと海老名くんが創部してたことは知ってたんだ…。私も昔から少女漫画とかそう言う類のものは大好きで…。」

「なんか、何となく分かった。要は同じことを話せる仲間を見つけたけど、その時は勇気が出なくて輪の中に入れなかったってことだね。」


いるよね、そーいう子。分かるよ。

と思っていると、僕の言葉に川崎さんが話を続けた。


「あとね、私、1年生の頃は少女漫画からちょっと離れてて。ちょっとした黒歴史…って言うのかな。そう言うのがあって。それで入れなかったって言うか…。」

「あー、なるほど。僕が一番嫌いなタイプだ。それ。」

「え!?」


川崎さんがまた大きな声を出した。

意外と上がり下がりが激しいな、と思いつつも話を続ける。


「誤解を招きたくないから一応言うけど。今の川崎さんは嫌いなタイプじゃないと思う。けど、その黒歴史を黒歴史って言っていなかったら多分、嫌いなタイプだったかもしれないって言うこと。」

「ふ、藤沢くんは超能力者なの…?」

「は?」


急に川崎さんの質問に思わずいつもの千春と話す感じで返してしまった。

僕の『は?』を聞いた時、川崎さんがビクッとなったのは、なんかごめん。


「いや、話してる内容から予測してるだけだよ。だから外れることもある。でも、その言い方だと僕の予測は当たってるみたいだね。」

「う、うん…。さすがは学年3位のことはあるなって思っちゃった。」

「いや、それ今は関係ないから。」

「ご、ごめんなさい…。」


僕は川崎さんにも聞こえないくらいのため息を吐いた。

そして時計を見て、


「千春、戻ってくるの遅すぎだろ。」


と呟いた。

そしてまた川崎さんの方へ向き、


「立ってるのもあれだから、空いてる席に座って。部活のこと説明しないと千春に怒られるから。」


と言った。

その言葉に川崎さんはちょっとした笑顔を見せ、


「うんっ。」


と言いながら頷き、空いている席へと座った。

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