『新たな入部者①』
「誰も来ないじゃねぇかよ。」
千春は壁に掛けてある時計を見て僕にそう言った。
部活見学の時間が始まってから約1時間が経過した。
確かに、言われてみれば他の文化部の部室からは盛り上がっている声が聞こえてくるのにこの教室はいつも通り静まり返っている。
「別に誰も来ないほうが僕らが卒業するときに廃部に出来るから千春にとっては楽だと思うけど。」
僕は千春に向かって来年のことも含めてそう返した。
まぁ、僕自身も何もすることがない部活の紹介を新入生が来たらするのが面倒なので、誰も来ないほうが楽なのだが。
「でもさ、さっきタカさんに言われたんだけど。」
「なにを?」
「今年は1人部員が増えるだけで部費上げてくれるらしいんだとさ。」
「なにその大判振る舞い行為。てか、部費増やしたところで何に使うのさ。」
僕はさっきから千春が嫌ほど言っている部費について何に使うのかを聞いた。
しかし千春はその言葉を聞いて、
「…使うものねぇな。」
と一瞬、考えた間があったが直ぐに答えた。
「ほらね。てか僕、千春が部費貰ってるところ見たことないんだけど。」
「だって全部、タカさんが受け取ってるらしいから。」
それは初耳だよ、千春。
と、僕は思いながら会話を続ける。
「じゃあ全部、あの人のポケットマネーになってるよ。」
「それはもう横領だろ。優しいのは表向きの顔だったか…。」
え、なに。
千春はあの人が優しい先生だと思ってたの。
と、僕は一瞬思ってしまったが、まぁ、優しいか優しくないかを考えるのは人それぞれかと僕は考えた。
「まぁ、部費を使うことなんてないんだし、別にもう考えなくて良いんじゃないの。」
「確かにな。考えないようにしとくわ。」
「それが一番良いよ。」
「おう。」
千春は僕の言葉に納得したようで、また自分が持ってきた漫画を読むことに集中し始めた。
僕も昨日買った漫画を消費しないと次の漫画が買えないのでリュックに入ってる漫画を取り出そうとしたその時だった。
「あっ、あのっ!」
今まで開くこともなかった扉が急に開き、それと同時に聞き覚えのある声が静まり返った部室内に響き渡った。
「あれ。」
千春が読んでいた漫画を一旦中断し、扉の方に目を向けた。
僕も急な出来事に驚きを隠せず、千春と同じ方向に目を向けた。
「…川崎さんじゃん。どしたの、何かあった?」
千春がその子の苗字にさん付けをし、言葉を発した。
そう、紛れもなく開いた扉の前に立っていたのは、教室に居た時、僕と千春を見ていた(かもしれない)、川崎桜だった。
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