『新学期と僕と幼馴染②』

教室に戻ると、千春が机に顔を伏せていた。


「なにしてんの。」


僕は千春にそう言う。

千春は僕の言葉に対して、


「眠いんだよ。お前に早く起こされたせいで。」


と僕に不満を言い放ってきた。

先程までそんなことは一言も発してなかったくせに、と僕は思ったが、そんな眠そうな千春を僕は無視をして隣の席に座った。


「くろやぁ、タカさん、何か部活のこと言ってたかぁ?」

「なにも言われてないよ。ただ台本渡されただけだし。」

「あ、そう。」


千春が言う『タカさん』とは、さっきのあの『厚木孝弘』先生のことだ。

僕は先生と呼んでいるが、本人は『先生』と呼ばれるのがあまり好きではないらしく、生徒に自身のことを『タカさん』と呼ぶように言っている。

そのことが原因で古株の教師陣に色々怒られているそうなのだが。


「千春が部活のことを心配するなんて珍しいね。僕から強制的に部長やらせれてるのに。」

「部費のことが気になっただけだよ。ただでさえ俺とお前しかいないのに、部費が出てることが違和感でしかないんだよ。」

「うちの高校の部活は案外緩いからさ。1人でも創部できるじゃん。」


南鎌倉高校には多くの部活がある。

部活動だけではなく『同好会』と言うものも存在をしており、その殆どに部費が出ている。

それは当たり前の話なのだが、珍しいのはここから。

たとえ部員が1人でも新しく部活を創ることが出来、ちゃんとその部活にも部室と部費が出るのである。

良く他の学校からは『頭がおかしい』とも言われるが、それは僕ら生徒も思っていること。


「でもアレなんだろ?学校に利益をもたらさない創部申請は却下してるんだろ?」

「厚木先生曰くそうなんだって。兄さんと姉さんも同じこと言ってたし。」

「『少女漫画研究部』のどこが学校に利益をもたらしてるんだよ…。」


確かに、千春の言った通りだ。

僕もあの時、創部申請を出して却下されると思いきや、許可が出たのが不思議だった。

あ、でも…


「あ、でもさ。文化祭の時に千春、同人誌出してるじゃん。それでじゃないの。」

「あー…、それを出さなかったら今頃、廃部にされてたってことか。まぁ俺は別に廃部でも良かったけどな。」

「案外と乗り気だったのどこの誰なんだよ。」

「…俺だな。」


僕はあの文化祭の時、意外に乗り気だったのが千春だと言うことを本人に分からせた。

そして良いタイミングだったのか知らないが、そこで学校が始まるチャイムが校舎全体に鳴り響いた。


僕は教室に仮担任が入ってくると同時に、先程もらった原稿に目を落とした。

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