『新学期と僕と幼馴染①』

「じゃあ、頼むよ。クロ。」


僕の名前を『クロ』と略し、そう言ったのは国語教師でもあり、

主に2、3年生に古文を教えている『厚木孝弘あつぎたかひろ』という男。

なぜこの人が僕のことを略しているのかと言うと、この人は僕が創部した部活の顧問でもあり、また僕と千春の1年生時の担任だからでもある。


「こーいうのは前もって伝えるべきじゃないんですかぁ。いくらなんでも前日は遅過ぎますってぇ。」

「仕方ないだろ、本当はクロがやる予定じゃなかったんだから。」

「え、じゃあ誰だったんですか。」

「2年の『綾瀬香織あやせかおり』っていう生徒。」


僕はこの名前を後にまた聞くとは、この時には思っていなかった。


「何かあったんですか、その子。」


僕はその子が外された理由を先生に尋ねた。


「昨日の夕方に熱出したんだとさ。それで今日は様子を見たいから休みにしてくれって昨日の夜、母親から連絡があったんだよ。」

「もしかして本番に弱いタイプの子ですか。」

「じゃないの。俺はその子のクラスの古文、担当してないから知らんけど。」

「でも名前は知ってるんですね。」


僕は渡されたスピーチの台本を見ながらそう言った。

在校生代表と書かれた場所の横を見ると、明らかに修正テープを使い、名前を僕の名前に変更した跡が残っていた。


「綾瀬香織、ねぇ。いかにも頭良さそうな名前。」

「そう言うクロの名前は頭悪そうなのにな。」

「それ、僕の親のこと、バカにしてません?」

「してないしてない。てかほら、早く教室戻れ。そして原稿に目を通しておけ。」


先生はそう言いながら、『あっち行け』と手で伝えた。

僕は先生のその仕草に不満を覚えながらも従い、職員室を後にした。

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