『いつもの日常②』

藤沢駅から学校の最寄り駅である『七里ヶ浜駅』までは電車で約20分程度。

その間、観光地である江ノ島が近くの『江ノ島駅』を通ったり、かの有名な踏切がある『鎌倉高校前駅』を通ったりする。


電車に乗っているのは鎌高の生徒と南鎌高の生徒が大半だ。

学校は違えど、距離があまりにも近いためか友達がいる生徒もおり、ましてや彼氏彼女がどっちかの高校にいるなんてことは当たり前とのこと。


僕はそんな生徒たちを気にせず電車の端っこの席に座っていた。

すると僕の横に座っていた1人の生徒が僕に向かって話し始めた。


「『味楽』今月いっぱいで店閉めるんだってさ。」

「え、そうなの。」

「後継者がいないんだってさ。それが大きな理由なんだって。」


話しかけてきたのは僕の幼馴染みでもあり、家が隣同士の『海老名千春えびなちはる

彼もまた僕と同じ南鎌倉高校の生徒である。


彼とは幼稚園、小学校、中学校の全てが同じで高校も


『黒夜が行くなら』


という理由で志望校に選んだらしい。

でもこいつ、鎌高でもなく南鎌高でもない他校に彼女がいる。

そんな彼女さんも僕とまた幼馴染みなのだが。


「まぁでも、爺さん死んでから1人だったしな、あそこの婆さん。」

「子供もいなかったからね。」

「でも美味かったんだけどな、あそこのたこせん。」


『たこせん』は江ノ島の名物である。

江ノ島に行くと大体のお店がたこせんを焼いているイメージがあるが、それは名物だからという理由。

だからたこせんの店が1つ潰れようが僕には関係がない。


「でもどこでも食べられるじゃん、たこせんなんてさ。」

「まぁ確かになぁ。でも、それを食べに江ノ島に行こうとは思わん。」

「てか地元だから行く気出ないし。」

「それは本当にそう。」


そんな他愛もない会話をしているうちに電車は鎌倉高校前駅を通り過ぎて、七里ヶ浜駅へと着いていた。

新学期で、まだ時間が早いということもあり、七里ヶ浜で降りる南鎌高の生徒は僕らを含めて10人程度しかいなかった。


季節は春。

駅から降りてから直ぐ見える学校には今年も桜が見事に咲いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る