小説「ぎょしゃ」
有原野分
ぎょしゃ
夏の終わりに雨が降った。通り雨だろうな、きっと。すりガラスの向こう側からパチパチと花火の様な雨の音と、何かにしがみついている様な蝉の弱々しい泣き声がベランダを叩く。そして音と音は混ざり合って、下水道に捨てられていく。妙に焦る気分だ。干していた洗濯物の影が揺れているのにふと気が付いたがもう遅い。あーあ、めんどくせぇな、まぁそのうち、いつかきっと乾くだろうとか思いながらいい加減に寝飽きてカビの生えそうな体を起こした。酒と煙草とゲロ臭い部屋の空気をクーラーが冷やしながら隅々まで送っている。まるでぐじゅぐじゅに腐った虫々が張り付いている蜘蛛の巣に顔面から突っこんだみたいにどうしようもない状況。子供の頃に見た親戚の葬式の一場面、何故いい大人が嘘んこ顔で泣いているのか分からなかった気分に似た嫌な世界に今俺は居るんだなと、ふと憂鬱になった。皮肉優待生で関西の大学に入った様な俺。この部屋には生も死もゴキブリさえもやる気のない顔をして横になっていた。
十数時間も飯を食べていないと、もはや腹が減るというより何故か満腹感がある。連日の酒で内臓に麻酔でも掛っているのか?しかしまだ二一歳の体。本能が食えと言っているみたいだ。仕方なしにもぞもぞと冷蔵庫を漁ろうと物置みたいな台所に向かうが、思い直し洗面台に行くことにした。冷蔵庫を開けたってすいたんをくらうだけだ。連日のしけで中身は空っぽ。俺は三日間部屋から出ていなかった。洗面台のあるユニットバスに入った瞬間、それ特有の生水臭い匂いに釣られて、吐き気がお帰りと言いながらこっちを見ている。最悪だ。いつかきっと掃除しなくちゃいけねぇな。顔を洗い、歯を磨く。髭はまた今度。顔を上げ濡れた顔を見つめた。…違和感。これ誰だっけな?自分の顔?まるで他人。のっぺらぼうが、気狂いみたいに笑ってら。そして嘔吐。何も食ってねぇのに何かを吐いた。口の周りはどろどろと打ち上げられたクラゲみたいに輝いている。子蠅が集ってきそうな顔をまた念入りに洗う。歯を磨く。下を見ると洗面台。消えそうな小石の様な石鹸。そして鏡。…ピアスが一個とれていた。
部屋から三日間、たったの三日間外に出なかっただけなのに、宇宙と同じぐらい外の世界が未知なものに思えてきた。アパートから徒歩五分ぐらいの所にコンビニはあるのだが、夕方は人が多いので行きたくなかった。誰にも会いたくない気持ちが着替えは済ましたものの、何か忘れ物をしているフリをしてまた部屋に座りこませる。これじゃ家賃の振り込みも出来やしねぇ、全く。煙草に火を点けて深呼吸。ヤニのこべり付いた天井を、太陽でも見る様に目を細めて見上げた。…情けない。文字通り煙に巻きたかった。
◇三日間引き籠る一か月前の話◇
旧外環沿いの道路に面した小さなDPEショップでは連日の雨のせいで今日も退屈な時間が流れていた。店内清掃や陳列、プリンターや機械の掃除、調整、売上表も記入したし、後は客に電話でも掛けるぐらいしか思いつかない。半年以上も写真を取りに来ない客はざらにいたが電話しても焼け石に水が大半だ。俺は暇に任せてぼーっとする事にした。その時、正面のドアが開きむあっとした生温く貧乏くさい夕日が飛び込んできた。入店した客を見ようとしたが、西日の中に包まれていて良く認識できない。「ただいま~」とそのハスキーな声で客ではない事が分かった。店長が休憩から戻ってきた。お帰りなさいと俺は笑って答えた。
店長は今年で四十六歳の二児の母である。長男は俺と同い年という事で、やたらと息子はあーだこうだと愚痴の様な自慢をしてくる教育熱心なママさんだ。「今日はちゃんと大学行って来たん?」店長が笑いながらカウンターの内側に入って横の椅子にドスンと座る。「そりゃ行って来ましたよ。今日は大切な夏休み返上の補講ですからね。店長も知ってる通り僕は勉強が好きな真面目な好青年ですからね。皆がテスト終わりの打ち上げに行ってる時も僕は黙々と勉学を嗜んでましたよ」などと適当な事を言う。本当は皆と一緒に朝まで飲んでいた。ただ店長は全て分かっているかの様に「嘘やろ」と言ってきた。俺は笑って全てを打ち明ける。「全く、口ばっか達者やな。だから言うたやん?大学はきちんと行きて。ちゃんと行ってたら今日やって学校行かんでも良かったのに。それにしても今日はほんまに眠たそうやな。そんなんで星見れるん?」俺は大丈夫ですよと言い、時計を見つめた。「七時あがりやろ?後ちょっとやん」と言う店長に天気の事を聞いてみた。「大丈夫やって。天気予報は夜に雨上がる言うてたし。多分。まぁ眠らんよーに見てきーや。いい写真撮れたらまた見せてな」俺は勿論ですと頷いたが多分今日は撮らないだろう。何故か、そんな気分だった。
店長に引き継ぎを済まし家に帰ってシャワーを浴びた。昨日の酒と寝不足はお湯ぐらいではビクともせず、俺は少し仮眠を取ろうかどうか迷っていた。ただこのまま寝たら約束の時間からは十時間は遅れる自信があった。朝の九時では太陽しか見えない。目を覚ますしかない、と思えば思うほど瞼が俺の意思に逆らってくっ付こうとする。どうするか。寝るか、起きるか…、悶々した頭の中で音が聞こえた。タイミングよく電話が鳴っていた。まだ時間まであるのに誰だろうと思い煙草に火を点けようとしふと時計を見たら十時五十分。やばい!集合時間の十分前だ!さっきまでの思考もどうやら夢の中だったみたいだ。一瞬焦ったが何故だか不思議とすぐに落ち着いて煙草を吸った。少し遅れるが十時間後では無いし、もう時間は戻らないから仕方がない。謝ろう。この度は誠に持って相すみませぬ――。
「ほんま遅れてごめん。でも電話してくれて助かったわぁ。気が付いたら意識飛んでたわ」「良いよ良いよ。毎度の事だし。お前は遅刻魔だけぇなぁ。所で詫びの品買ってきたん?」
「おう。当たり前じゃ。ビールにポン酒と適当なつまみ。所で晴れてよかったな」
「だろ?今日は楽しみにしてたからなぁ。ほんとに良かった」
「まぁゆっくり見ようで。酒でも飲みながらよ。でもなんで今日だったん?ペルセウスの極大夜は今日じゃないだろ?」
「…良いんだよ今日で。んな事よりビールが温くなる前に乾杯しようで!」
こいつとは地元の高校の時に出会ったのが初めてだった。いつもヒョロヒョロ歩いており、体育の時間は大概見学していたのを覚えている。先天性の病気のせいで足が悪く普段の生活には支障は無いそうだが走ったりは出来ないらしい。やせ細った鳥の様な足を見たのはつい最近の事だ。病気の事もつい最近聞いた。俺らは高校の時殆ど話したことが無かった。いや、違う。俺はこいつを何度かからかって苛めたことがある。弱々しいこいつは恰好の笑い者だった。
大学の為に大阪に越した。仲の良かった友達は皆違うところに行った。慣れない土地と環境。友達は中々出来ず、1人で寂しかった。少しして地元の友達と電話をしてる時にこいつも大阪に来ている事が分かった。何故か少しほっとしたのを覚えている。冗談半分でメールでもしてみるかと思い人伝いにアドレスを聞き連絡してみた。「久しぶり!覚えてるかぁ?お前も大阪なんだってな。俺も大阪だし今度飲みにでも行こうで」と確かこんな感じで。どうせ馬鹿にされて無視されるもんだと思っていたが意外にも返信が来た。そして飲みに行ったんだ。何を話していいかも分からず、まずごめんなと言おうと思っていたが、言えなかった。こいつは過去の事はすっかり忘れた様な顔で俺の前に現れ、笑っていた。そして宇宙について語ってくれた。大学の講義のやる気のない話とは違い俺は聞き惚れ込んだ。「―つまりね、宇宙の始まりはビックバンなのは常識だけどそれじゃ説明が―インフレーション理論のその前に膨張―太陽活動は今二十四周期で―だから火星には生物が居た形跡が―」といったように最後は宇宙人が居るか居ないかの大論争。記憶は宇宙の彼方。目が覚めたら自分の部屋で寝てた。携帯にはこいつからのメールが入っていた。「昨日はありがとう。僕もこっちで友達があまりできなくてさ。まぁ昔からあまり居なかったけどね。もし良かったらまた行こうよ。宇宙人の続きをしよう」
それから俺とこいつはたまに会っては飲んで語ったんだ。過去がまるで、ビックバンが起こる前の様に静かに膨れていく。遠くからは真昼に聞いた蝉の鳴き声が静かに近づいてきてる様な気がした。
「…ぼーっとしてどうしたん?眠たいん?」
「ん、あぁごめんごめん。ちょっとね。星空に見とれとって」
「嘘つけ、全然上見て無かったじゃん。それに全然星見えんし。やっぱ大阪の空はきたないなぁ。地元だったら満天の星が光ってるんだろうなぁ」
「海と山しか無いけど」
「確かにね。それにしても流れてくれんなぁ。てか何か考え事してたん?」俺は笑いながら首を横に振った。
「でもそろそろ上見とかんとね。奴らはいつ流れるか分からんあ!…今見た?流れた!初ペルセウス!光った!流れた!ちゃんと見た?キタね!今から仰山くるけぇ!」
「まじで?完全に見逃したし!まじ最悪!ちゃんと流れたら言ってや!」
「んな無理だし!」
「知ってるわ!よし!今からが本番だ。幕は上がった!」
「ちゃんと見んさいよ!」
「了解!」
グラウンドの隅の芝生の上に敷かれたブルーシートは今日の雨で今にもケツが濡れそうだった。他には誰も居ない。俺は空を見上げた。真黒な空。あの先はきっと今この場所と繋がっているんだろう。穏やかで温かい闇。汗ばむ音が聞こえそうだ。っあ!と一瞬体の中心部の核から声が出た。鋭い光が真黒な空を切り裂いた。流れた!次も来た!あそこにも!あっちにも!頼む!どっかの神様!瞬きも今だけはさぼってくれ!
「…見てる?」
「うん」
会話はもはや重力に吸い込まれていた。とにかく空。宇宙。目ん玉が引き寄せられて行く。次に脳。神経。足。腕。体。魂。包まれていった。
泣きそうだ…。
そして無。
「…でもさぁ。僕ふと思うんだ。今僕たちが見ているあの星の光はさ、何万年も昔の星の光なんだよね。今この瞬間、この時にはあの星はそこには無いんだ。あそこには何もないんだよ。今頃はまだ誰にも見つかっていない宇宙の果てで静かに無くなっていくんだ」
「急にどうしたん?それに星なんて見えんじゃん」
「良く見てよ!僕にははっきりと見えるよ。星々の光が」
「俺には流れ星しか見えんけども」
「…流れ星だってそうさ。所詮、星の塵の集まり。それが大気に突入して発光しているだけなんだ。夢だって三回唱えても叶わないし、見ただけでは人は死なない」
「人が死ぬ?」
「童話に出てくる話だよ。赤い彗星だって燃焼の変化に過ぎないんだ」
「そりゃそうかも知れんが、何で今そんな事言うん?」
「…僕には夢があったんだ。宇宙飛行士になりたかった。でも皆が知ってる通りこの足だ。馬鹿にされるだけの足だ。分かってたよ。無理な事はね。生まれてすぐに。でも行きたかった。あの空の向こうに。一度でも行ってみたかった」
「でもさ!宇宙飛行士は無理かも知れんけど、生きてる中には行けるかも知れんじゃん。ナサに頑張って貰ってさ。誰でも宇宙旅行出来る日がきっと来るって!」
「僕の体じゃ無理だよ」
「んじゃ精神だけ飛ばしたら?とかね。ごめんな冗談だって」
「…今日は星が綺麗だ」
空には流れ星が消えては光り消えては光り、そして消えた。何もかも。さっきまであったはずの真っ暗な空も、温いポン酒も。ただ横にはこいつが座っている。とても静かだ。
「僕さぁ、今日変な夢見たんだ。クジラがね、とてもちっちゃい沢山の小人達と遊びたがってるんだ。でもクジラは仲間外れ。小人はクジラの周りをグルグル回って楽しそうに笑っているんだ。クジラも仲間になりたいが為に必死に体を動かして小人を追いかけるんだ。でもその度にクジラに潰されて小人が死んでいった。何人も何人も。残り数人になった時にピタッと小人が走るのを止めたんだ。そして手と手を取り合って、目の前にあったまるで天の川の様なきらきら光る滑り台を滑って行った。クジラも後を付いて行こうとしたが、いかんせん体がでかくて乗れないんだ。何処までも遠くに伸びる滑り台は空の果ての見えない所まで小人を運んでいった。クジラはただただ眺めていた。多分、君の目の前に居るクジラはきっと僕の見たクジラだと思うよ」
目の前を見たら全長十メートルはあろうかと思うクジラがふわふわ浮かんでいた。じっと俺を見てる。不思議と恐怖心も猜疑心も忘れて、ただただクジラを見つめた。泣いている。このクジラは悲しみだ。空からは甲高い鳴き声が聞こえてきた。いつの間にか空高くには鳶が飛んでいた。鳶はクジラを狙っていた。そして泣いていた。この鳶は寂しさだ。ふと隣を見たら、三角座りをしているこいつの周りを沢山の小人達がグルグル走り回っている。俺は何故か腹が立って小人を何人か叩き潰した。ぐしゅっと音が鳴り、泡みたいに地面に消えていく。小人はそれでも走り回っていた。俺はまた何人か叩き殺した。すると小人達は急に止まり、集まりだした。円陣を組み何かごにょごにょ呟きだした。すると目の前に輝き溢れる滑り台が現れ、きらきらと星を集めたみたいに光っている。小人達は一斉に滑りだした。何故かこいつもそのままの姿勢で滑っている。おい!と言う間も無く、声の届かない遠くまで行っている。俺とクジラと鳶はただただ眺めていた。
「…おーい!そろそろ起きろよ!」その声で目が覚めた。しまった。どうやら眠ってしまっていたみたいだ。やたらと酒臭い。気持ちが悪い。そんなに飲んだっけ?空にはまだペルセウスの欠片が流れていた。俺はだるそうに謝った。「良いよ良いよ。僕もちょっとうとうとしてたしね。そろそろ帰ろっか。もうだいぶ見たしね」俺は黙って頷いた。そうか、さっきのは夢か。まぁそりゃそうか。帰り仕度はお互い特に何も無く、そそくさとシートをしまったり、空を見上げたり。そんな感じ。
「所でさ、さっき言った事覚えてる?」
「さっき?変な夢の話?」
「何それ。違うよ」
「んじゃ、宇宙飛行士の話?」
「んな事一言も言ってないし。来月の今日も一緒に天体観測せん?って話」
「来月?んー大丈夫だよ。シフトはまだ出してないし。てか来月って何かあったっけ?」
「有名じゃ無いけど、ぎょしゃ座流星群ってのが流れるんよ。でも一時間に一、二個ぐらいしか流れんけぇ見れるか分からんけど」
「良いよ良いよ。んじゃまた連絡してな」
俺はそのままチャリに乗って家に帰り、すぐに横になって目を閉じた。瞼の裏の真っ暗な世界には、今日見た流れ星が残像の様に降り注ぐ。遠くから鳶の甲高い鳴き声。クジラ。…ぎょしゃ。ゆっくりとまた暗い何も無い世界へと俺は落ちていった。深い。
外では雨が降っている気がした。
◇現在の話◇
夏の終わりの雨の中、俺は浜田行きのバスの中に座っていた。雨が窓ガラスを斜めに滑るのを見ながら、俺は昔の事を思い出していた。あの夜の事やバイトをしていた写真屋の店長の事、ぎょしゃ座の事。あれからぎょしゃ座について調べてみたら、昔の神話時代にローマ人がこの星座を鍛冶神ヘーパなんちゃらの息子、アテネの王エリクトニオスと考えており、何とかと言う女神に助けられ、戦車馬車を発明し戦績をあげたとされている。そしてこの王は足が不自由だったとされていた。まるであいつみたいだ。ただ、あいつは戦績はあげていない。
夕方近く、浜田駅に着いた。雨は上がっていた。親父の迎えの車で江津に向う。二十分ぐらいで家には着くがその間の一年ぶりの帰郷の言葉は暗く静かな日本海に流されていった。家に着き、懐かしくもどこか豪勢な飯を頂く。旨い。すこし会話をする。最近の仕事や生活、東京と島根との違う所、そして田舎の変わらなさ。時間は日付を変えた辺りで俺は車を借り、星高山の中腹にある椿の里へと車を向けた。遠くにはぽつぽつと民家の明かり。一つの車のライトが暗い町を切り裂いていく。日本海は真っ暗で見えない。車から降りて空を見上げる。満天の星が今にも落ちてきそうだ。周りは草木の風の音。そして街灯一つ無い。エンジンを切ると本物の夜に包まれた。
今日はあいつの三回忌。あの日に俺は星を、足の不自由な王を見なかった。急の連絡で地元の友達が大阪に遊びに来たんだ。俺は、あいつのメールも電話もその時は無視したんだ。そうだ、高校の友達にはあいつと遊んでる事は言って無かった。言えなかった。だから俺はあいつとの約束を破った。心のどこかでは、まだあいつを笑っていたのかも知れない。ただ…知らなかったんだ。知ったのは皮肉にも地元の友達との会話の中だった。「なぁ、今来たんだけどほら、そういえば高校ん時に足の悪い奴いたじゃん?あいつさ、昨日自殺したんだって。うちの親がメールしてきた。確か大阪だったっけ?お前と一緒じゃん。もしかしてお前が殺したんじゃねーの?あはは、嘘だって。でもあん時は皆と一緒に馬鹿にしてからかっていたよなぁ。今さらだけど何か、複雑だよな。葬式出る?」
俺は葬式に出なかった。三日間引き籠った。墓参りには後日1人で行った。誰も居なかった。あいつの墓の前で俺は謝った。でも、分からない。何故死んだのか?俺のせいか?分からない。噂によると遺書は無かったらしい。宇宙は本当に広いんだろうか。星は輝いているんだろうか。あいつは生きていたんだろうか?と、ふと思った。
椿の里、真っ暗な砂利の駐車上の中。空は満天の星。見上げる。光りの点が無数にあっちにこっちに。向こうにこっちに。無限に近い感覚の時間の中見上げていた。星が一つ、流れた。来たか、ぎょしゃの王よ。俺は手をめいっぱい伸ばし、流れ落ちる前に星を捕まえ、両手で掴んだ。星は手から出ようともがくが、俺はそれを握り潰し、そっと顔に擦り付けた。顔はべたべたになり、まるで打ち上げられたクラゲみたいに光っては消えていく。目は真っ赤になり、暫くしてやっと涙がおさまった。
小説「ぎょしゃ」 有原野分 @yujiarihara
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