第7話 人の思い出は良さは不理、人の言葉は直接体に。

Scene7

 曲が終わり、無音になった部屋で感想を独り言ちる。

「なんだか私には良さがわからなかったな」

「そんなものさ。だって他人の思い出だ。いくら自分の大切な人でもね」

「そっか。……ところで。さっきはなんで急に音をたてて、文字入力したの?」

「格好よく決めたいときは音を立てるものなんだよ」

 それは本当なのだろうか。


「君の保護者が探していたのはこの音楽だろう。これをカセットに吹き込んで渡してやれ。ちょうど旅で使っていたレコーダーがある」

 燈子さんが指さした方向を見ると古ぼけた布のショルダーバッグが置いてある。あのカバンの中にレコーダーが入っているということだろう。


 録音を済ませ、帰り際。ふとさっきの検索を思い出す。

 ねえ、と私は言う。

「欲望が増幅される感覚は味わったけど、なんでこれが有害なのか私にはわからないや」

「ふむ。欲望を持つこと自体はいいことさ。でも行き過ぎたり、他人から刷り込まれた欲を自分のものだと勘違いすると、本当に自分の大切なことが分からなくなってしまう。人と自分を比べてしまう。症状が進むと、自分を大きく見せて嘘をついたり、人を陥れたりという例もあったそうだ。欲は歪んだ形で伝染する。デザイアハザードと言うそうだ」

 燈子さんは続ける。

「煌びやかな時代っていうのは、意外と空虚だったんだよ。今となっては過去の思い出なんだ。実態はなかったはずだしもう戻れない。でもさ、次の時代に生きていくために必要なものもほんの少しあった。空虚の中にも本物がいくつかあったはずなんだよ。その過去を掬い取ってあげるのが検索師なんだ」


 燈子さんの言葉に、なぜだか私は胸が熱くなり、自分の視界がぼやけるのを感じた。大きく鼻を啜って宣言する。

「やっぱり! 私、検索師を目指すよ! いずれは検索師になってみんなの大切なものを掬い取るんだ。燈子さんの弟子になって、燈子さんが旅立つときは私もついていくことにする!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る